美術室は校舎の端にある。わざわざ足を運ばなければならない場所。

 すなわち、何か用事がなければ普通は立ち寄らない。

 肩を並べる2人に動揺して、何も言葉が出て来ない。


「何かあったのかなと思って」

 心配そうにする湊くんから、一歩下がる。


「湊くん、鹿島さん困ってるわよ? そんなことより、今日やっぱりエルアにしましょうよ。前から行ってみたいと思ってたの」

「そこ僕も気になってたんだ」

「楽しみね」


 さりげなく瀬崎さんの手が湊くんの腕に触れて、ぱりんと音がする。

 心の中にあるガラス玉が割れた音。


「結奈ちゃん」

「たまたま、通りかかっただけなの! ほんとに、なんでもなくて。じゃあ、行くね」


 顔も見ないで、言うだけ言って足早に去る。そうするしかなかった。

 後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、聞こえないふり。

 瀬崎さんと一緒にいるところを見ていられなくて、聞きたくなくて、私は逃げた。

 とにかく、ひたすら心を無にして。

 あれは、デートの約束なんかじゃない。仲睦まじく話していたわけじゃない。
 
 余計な想像をしないように。