月曜の朝。水滴の付いた傘、湿った衣服の匂い、底が濡れて泥が付いた靴。

 雨降り日の電車は、見慣れない顔が増える。

 だから、刺すような視線を紛らわすことが出来る。と思ったのに。

 やっぱり今日も見ている。乗車してからもう何分も感じている違和感は、学校へ着くまでしばらく続いた。

 少し怖くなりながら、靴を履き替える。

 昨日の勉強会の話をずっとしていたから、比茉里ちゃんは気付いていないのだろう。

 教室へ入るなり、女子たちが駆け足で近付いて来た。

 あまり話したことのない子だから、緊張して変に身構えてしまう。


「鹿島さんって、瀬崎さんと知り合いなの?」

 第一声がそれで、思わず言葉に詰まる。


「知り合い、ではないかな……」


 この前、美術室で話したのが初対面だった。

 だから、心当たりが無さ過ぎて正直戸惑っている。関係のない2人がそわそわとしながら、顔を見合わせて。


「さっき7組に来たの。鹿島さんを探してたみたいだよ」

「瀬崎さんが?」

「うん、初めて話しちゃった。やっぱりあの子、キレイだね」


 要件だけ伝えて、彼女たちはくるりと背を向けて去って行く。

 その後ろ姿を眺めながら、誰から見ても瀬崎さんは美人なんだな……なんて胸がチクリと痛んで。すぐ不安に襲われた。

 わざわざ訪ねてくるなんて。私、何をやらかしちゃったんだろう。