「ちなみに、この弁当は下津くんの奢おごりなので」

「これ全部? ちゃんと払うから、いくら……」

「僕も出すから、女の子はいいよ」


 慌てて財布を出しかけた手を湊くんに阻止されて。

 無意識なんだろうけど、軽く触れた肌にドキドキした。


「湊がおごってくれてもいーんだけどね? 俺なんかより御曹司じゃん」

「ん、どうゆうこと?」


 比茉里ちゃんの投げかけに少し遅れて。

「ああ……」と湊くんが気まずそうな表情を浮かべる。


「まさか自分のこと棚に上げて、俺の事だけ話したのかー?」

「ちがっ、聞かれなかったから。自分から言うことじゃないでしょ」


 少し焦った口調に聞こえた。慌てるような素振りを見せることがないから、それが新鮮に思えて。胸がうずうずと動く。


「言っとくけど、俺なんかよりずっと上級クラスの坊ちゃんだからね。なんたって、老若男女問わず有名なあのフィル・ルージュの息子だから」

 少し間が空いて、私たちの声が飛ぶ。


「……フィル・ルージュ?!」


 耳元できらりと光る髪飾りは、湊くんが知られたくない秘密のひとつだったんだ。