向かいたくないのに、足が勝手に駅へと進む。
 不安なのに、料理コンテストの結果を何度も確認してしまう時と同じ。

 悪い結果を想定しつつ、もしかしたらという奇跡を信じてる。さっきのは単なる想像だったという安心が欲しいの。


「何これ?」

「部活で作ったんだとさ」


 ホームの柱に隠れた直後のこと。藤波くんと女子生徒の話し声が耳に入った。

 ガサガサと紙袋を開ける音と一緒に、「げっ、これ本命のやつじゃない?」が風に乗って伝わって来る。


「食べないから、やる」


 心臓が止まった。込み上げて来るものは、失望か怒りか、それとも後悔か分からない。

 ただ目頭が熱くなって、戻らなければ良かったと思った。
 もう学校へ帰ろう。ここから離れようとした時。


「それ、君のために作ってくれた物だよ。どうして他の人にあげるの?」


 星名くんだ。
 一度しか聞いたことがないから確証はないけど、この爽やかな風が吹いているような優しい声色は彼で合っていると思う。

 人が来た。私のことを目で追いながら、中年女性が通り過ぎていく。

 不自然に隠れる体は、この場から早く去りたがっている。