数分後。
「お待たせしてすみません。こちらです」
出されたのは、いつもよりこげ茶の色が増したパンケーキ。一見チョコ味に見えるけど、匂いからして、
「カフェオレ…?」
と呟くと、那智くんの顔に笑みが浮かぶ。
「そうです。カフェオレパンケーキです」
「へえ、カフェオレね…」
世界のどこかには存在しているだろうけど、私は今まで見たことはない。そしてもちろん食べたことも、ない。
カフェオレはカフェオレのままで楽しみたいって人もいるだろうけど私は他でも大丈夫だし、カフェオレ味なんて聞いたら思わず手に取ってしまうんじゃないかな。
「どうぞ」
言われるがまま、私はおそるおそるクリームとパンケーキをひとかけら、掬った。
ふるんと揺れるパンケーキと粉雪が見た目でもその味を物語っている。
そっとそれを口に運ぶと、
溶けた。
「…おいひい」
子供みたいでちょっと恥ずかしかったけど、ほんとうに美味しかった。
溶けただけじゃなくて、ちゃんとカフェオレの味が残っていた。
カフェオレと言ってもビターなもので、甘さは控えめにしてあった。クリームはホワイトだったから多少甘くてもくどくなかったし、見た目も美味しそうにできていた。
「嬉しいです」
「こちらこそありがとう…」
お礼を言うと、なんだか急に涙が出そうになってきた。それを誤魔化すように、私は俯き長い髪で顔を隠した。
「どうしました…?」
那智くんが慌てた様子で声をかけてくる。私は迷いながら口を開いた。
「…実はね、今日彼氏に振られて」
あの人に別れを告げられたのが今日だなんて、今でも驚きだ。
なんだか、ものすごく前に起こったような気がする。
「もしかしたら暗い雰囲気が出てたかも。そしたらごめんね。…でも那智くんのパンケーキ、おいしかったよ。それでちょっと辛さが和らいだかも」