「あーいけない、俺買い出し行かなきゃなんだった。那智、店頼むぞ」
「え!?じーちゃん…」
「頼んだからな!」
そんな捨て台詞を残したあと、室木さんは財布を片手に走って行ってしまった。
「…なんだか、嵐みたいな人だな…」
ぽつりと呟くと、那智くんがくすっと笑った。
「そういえば三木さんって、甘いものがお好きなんですか」
いきなりそう聞かれ、狼狽えながら答える。
「あ、ああ…はい」
もしかして20代になってもなおブラックもお酒も飲めずにカフェオレを頼んでいる私ってちょっとイタかった…?
「実は…今試作品を作っているんです。
最近じーちゃんがバイトとして雇ってくれてて、せっかくだからお前もなんかメニュー作れよって言ってくれて。
甘いものなんですけど、よければ試食してくれませんか…?」
甘いもの。それで即釣られた。
「うん、もちろん。でも常連だとはいえ私でいいの?」
「はい。三木さんがいいんです」
そこまではっきり言われると恥ずかしい。
幸いこの時間帯にはあまり客がいないから、私がこんなふうに優遇されていることなんて気づかれないだろう。
「では、作ってきますね」
にこりと人の良い笑みを残して、那智くんはキッチンへと姿を消した。