「室木さん、いつもの」
お酒でも頼みそうな勢いで、私はカウンター席からそれを頼んだ。
かと言ってお酒は全く飲めないから、頼むのは子供でも飲めるものだけど。
「もしかして今日疲れてる?ミルク多めにしとこっか?」
「お願いします」
此処は私行きつけのカフェ。この初老の男性がオーナーで、どこか懐かしい雰囲気を感じるお店。
最近じゃこういうところを“エモい”って言うんだろうな。
「はい。カフェオレ」
私の言う“いつもの”とは、このカフェオレのこと。
何かあったときでも、何もないときでも、自然と飲みたくなる力がこのカフェオレにはあった。
「ん、もしかしてちょっと味変えました?」
いつもの味なような、でもいつもの味じゃないような気がする。
ベースはいつもと同じではあるけど、なにかが違うような気がする。
もしかして舌肥えた?と思っていると、室木さんの顔が綻んだ。
「お、さすが。今日は見習いが淹れたんだけど、やっぱり気づくもんだなあ」
「へえ、見習い…」
今日は久しぶりに来たから、私が見習いさんの存在を知らないのは無理もないかもしれない。
すると、カウンターの先から背の高い男子が見えた。