「ああもーっ!!
終わらないっ!!!」
 
午後九時をまわった会社。
残ってるのは私と課長のふたりだけ。

「ほらほら。
もうちょっとだから、頑張ろう?」

「……はい」
 
課長の、眼鏡の奥の目がにっこり笑う。
あの顔につい癒やされてしまう私も、大概だと思う。

伝票のチェックしながら、課長をちらり。
課長は自分の仕事なんて終わってるのに、私が終わるのを待ってくれてる。
大事な女を遅くにひとりになんてできないでしょ、って。

「おわっ、たー」

「お疲れ」
 
時計の針が十一時を過ぎた頃、やっと終わった仕事に安堵のため息。

「毎月大変だね、締め日は」

「そう思ってるんだったら。
頑張ってる部下にご褒美ください」

「ご褒美、ね」
 
重なった唇に疲れが吹っ飛んだ私はやっぱり、大概だ。