通学電車朝の電車、人が多くて嫌い。
……でも。
一つだけ、いいことがある。
それは、先輩と一緒、だということ。
先輩は、いつも吊革に掴まって文庫本を読んでいる。
ブラウンのブローフレームの眼鏡をかけた、学生服の先輩はまるで昭和の学生さんみたいで、そういうクラシカルな雰囲気が好きだったりする。
その日の電車。
いつも先輩の斜め前くらいなのに、今日は押されて正面。
先輩は本から顔を上げることはない。
読んでいるのは夏目漱石。
俯き気味に前に立ってたら電車が大きく揺れた。
思わず出た手が先輩の胸にふれる。
「……」
本から外れた視線が私に向かう。
「す、すみません」
慌てて手を引っ込めると、はぁと小さくため息の音がした。
「いいよ、掴まってて」
見上げた先輩の顔は少し赤い。
そっと先輩の制服の裾を掴んだ私の顔もきっと。
でも、さらに囁かれた言葉にオーバーヒートした。
「なんなら僕が、君専用の吊革になるよ」
……でも。
一つだけ、いいことがある。
それは、先輩と一緒、だということ。
先輩は、いつも吊革に掴まって文庫本を読んでいる。
ブラウンのブローフレームの眼鏡をかけた、学生服の先輩はまるで昭和の学生さんみたいで、そういうクラシカルな雰囲気が好きだったりする。
その日の電車。
いつも先輩の斜め前くらいなのに、今日は押されて正面。
先輩は本から顔を上げることはない。
読んでいるのは夏目漱石。
俯き気味に前に立ってたら電車が大きく揺れた。
思わず出た手が先輩の胸にふれる。
「……」
本から外れた視線が私に向かう。
「す、すみません」
慌てて手を引っ込めると、はぁと小さくため息の音がした。
「いいよ、掴まってて」
見上げた先輩の顔は少し赤い。
そっと先輩の制服の裾を掴んだ私の顔もきっと。
でも、さらに囁かれた言葉にオーバーヒートした。
「なんなら僕が、君専用の吊革になるよ」