私には人と付き合う資格はない。

「もし良ければ、知り合いがやってる風俗で働きますか?」
「いや、風俗は・・・。」
「でも、早く返せますよ。まだ、若いし、スタイルいいし、いい話だと思いますよ。」
「はあ。少し考えさせてください。」
「はい。また、気が向いたら連絡ください。」
名刺を渡された。

『早乙女金融 林本隆さん 携帯番号******』

「では、また。」
帰って行った。

『どうしたらいいんだろう?やるしかないのかな。でも、払わないと何されるかわかんないし。事務職では生活がやっと。』
いろいろ考えた結果、1週間後、林本さんに連絡し、風俗を紹介してもらうことにした。

こうして、昼は事務職・夜と休日はデリバリーヘルスを行う生活が始まった。
 工場の事務の定時は17時だった。残業することはほとんどなく、定時に帰宅する。
 事務職はOL着でナチュラルメイクだった。
 その後、シャワーを浴びて、化粧をしっかりし、髪型・服装を変える。
 高校生の時はギャルだったため、デリヘル用に作るのは容易だった。

 デリヘルは、自宅やホテルで、シャワーを一緒に浴び、お客様の希望のことを行う。
 基本、本番はなしとなっているが、やってる人も多い。ボーイなども容認している。

 デリヘル嬢になって半年以上が過ぎた。
 顧客もいたり、その日限りの人もいたり様々だった。
 
 おかげで月々、15万以上は返済できている。それでも5年近くかかる。
 
 今は見た目も地味で、合コンもない。出会いもないため、恋をすることがない。
 そもそも、恋をできる状態ではない。諦めていた。

 それに、元旦那のせいで、この生活になっている。
 結婚に理想も希望もない。
 
 それより、早く返済し、デリヘルを辞めたかった。

 今日も、事務仕事を定時に終わり、デリヘルセットを持って事務所に向かい準備をした。
 18時より出勤したことをブログに投稿する。
 そして、30分後、ボーイから連絡がきた。
「仕事です。5分で着きます。いけますか?」
「了解しました。」

 ホテルへ行く。
「久しぶり、つばきちゃん。」
「お久しぶりです。元気してました?」
「それがさあ、・・・」
なんて会話をし、シャワーを浴びて、行為を行う。
お金をもらい終了。

  生理の時は仕事にならないため、1週間休む。
 その間に、欲しいものを買ったり、ゆっくり過ごしている。

 
 秋になって、少し涼しくなってきた頃。
 私は生理だったので、休みの土曜日にショッピングに出かけた。
 カバンと靴を買ってルンルン気分だった。
 
 いつも、生理中の土曜日は同じカフェで、アイスカフェラテを飲んでいる。
 今日も買い物終わりに寄った。

 隣に座ってた男の人は、同じ年ぐらいで、顔が小さく、背が高かった。塩顔の爽やか系。いわゆるイケメン。

 その人が急に、
「あー。」
 とあたふたしていた。
 少しびっくりした。

 ふっと見ると、コーヒーをこぼしていた。
 店員さんは忙しくて、
「少々お待ちください。」
と言った。

 
私は、ウェットティッシュとティッシュをもっていたので、机の上のコーヒーを拭いた。
「すいません。」
「いえ。ちょっと服の下、失礼します。」
「え?」
「服のついた染みはこうしてとるといいんですよ。」
下に乾いたテッシュを置き、上からウエットティッシュで叩く。

「少し残ってしまいました。ごめんさない。」
「いやいや。ありがとうございます。本当に助かりました。」
「良かったです。」
店員さんが来てくれて、あとは処理してくれた。

「では、私はこれで。」
「本当にありがとうございました。」
「今度、お礼を。」
「気にしないでください。では。」
店を出た。

『イケメンみたし、カバン・靴変えたし、気分ルンルン。』
機嫌よく自宅アパートに帰った。
 それから1カ月、その間は、事務職とデリヘルの日々。

 また、生理のため、いつものカフェで、アイスコーヒー飲んでいた。
「あの、この前はありがとうございました。」
フッと顔を上げると、コーヒーをこぼしたイケメンだった。
「あー、どうも。」
「染みちゃんと落ちて助かりました。ありがとうございます。」
「いえ。」
「前、座ってもいいですか?」
「はい。どうぞ。」
「失礼します。」
緊張した。

「あの、よく、土曜日にここでアイスカフェラテ飲んでますよね?」
「え?あっはい。月1回ですかね。」
「そうなんですね。俺もたまに来るので、見かけてたんです。」
「そうだったんですね。気づいてませんでした。すいません。」
「謝ることじゃないですよ。」
「俺、細野翔太(しょうた)と言います。歳は33歳です。会社員です。
 お名前、伺ってもよろしいですか?」
「はい。森本瑞穂です。同じですかね?誕生日来たら33歳です。」
「俺も誕生日来てないので、今年34歳になります。1個上ですかね。」
「でも、1個なんてこの歳になれば変わらないもんですよ。」
「そうですね。」
笑い合った。

「このあと、空いてます?ごはん行きませんか?この前のお礼もかねて。」
「あー、はい。」
「本当、良かった。何が好きですか?」
「洋食がいいです。」
「了解しました。」
店を出た。車はいろいろな店の共同駐車場に止めたため、そのまま置いて、細野さんの車に乗った。

「敬語やめていいですか?」
「いいですよ。」
「良かった。瑞穂ちゃんってよんでいい?」
「はい。」
「瑞穂ちゃんも敬語じゃなくていいよ。あと、翔太で。」
「じゃあ、翔太くんって呼ぶね。」
「うん。」
店につき、ごはんを食べた。
「彼氏いる?」
「残念ながら、いない。」
「そうなんだ。俺も、今はいない。」
「今は・・・。つい最近までいたんだ。」
「鋭いね。先週別れた。」
「そうなんだ。」
店を出た。
「奢ってくれて、ありがとう。」
「いえいえ、お礼。」

カフェのあるところの駐車場まで送ってくれた。
「連絡先教えて。」
「はい。」
携帯番号を教えた。
「LINE登録もよろしくね。」
「はい。じゃあ。」
車に乗り、自宅アパートに帰った。




 

 

 
 それから、デリヘルのない日に、何度か食事に行くようになった。
 いつも優しくて、とても素敵な人で、徐々に惹かれていく自分がいた。

 しかし、私は、バツイチだというきなきと、デリヘルで働いてることは言えないでいた。

 ある日。
 私は翔太くんからデートに誘われた。
「土曜日空いてる?出かけない?」
土曜日は生理だったため、デリヘルは休みだった。
 
本当は、会わない方が、これ以上好きにならないからいいのかもしれない。
 しかし、会いたい気持ちが大きくて止められない。
「大丈夫。」
OKした。