登校中。あたしと愛子の待ち合わせ場所で、愛子はいつものように言った。


「おはよう、薫」


にっこり、そんな表現がぴったりなくらいに可愛い笑顔で愛子は笑った。


「おはよ、愛子」


愛子の顔を確認してから、あたしは「行こう」と言う。

「薫?凄く眠そうだねぇ?」
「あー、うん。マジ眠い」
「大丈夫ー?」
「うー…」

いつもの会話、そして今日もあの音が聞こえてくる。

シャコ、シャー…

「おはよう、矢野原くん」
「おはよ」

矢野原くんの自転車の音

因みに今「おはよう」と言ったのは愛子。あたしは矢野原くんに、というより愛子以外にあまり挨拶をしない。

言い方は悪いけど面倒くさい。



「あ、岸くん」
岸くん、は中岸くんのあだ名
今ではすっかり定着している

「おはよう、岸くん。
今日もハゲてるね!」

今のも愛子。
これに岸くんは大体

「うっせぇ、これはハゲてるわけじゃあないんだよ」

と呆れた感じで返す。

そしてそのまま岸くんと登校。

教室にいけばまだ矢野原くんしか居ないことが多い。

「…おはよ」
「あぁ、おはよ」

ここであたしは
気が向いたら挨拶をする。
返ってきた返事に少しだけ照れて、表情は変えずにいつもの席についた。

2人だけの教室で響いたあなたの声に、こんなにも温かくなった。

「おはよー!」

それはすぐに、教室に入って来た愛子の2度目のおはようで温度を落とした。

そしてあたしは笑顔で「さっき言ったじゃん!」って愛子に言うんだ。