誠さんが嫉妬することはないと言っていたから素直に認めてしまった。十年以上夢にでてくるほど気になっていたのだ。覚えているのは俯瞰したような冷たい瞳だけ。どうかあの眼にキラキラしたものが沢山映って、どうか笑ってくれていますようにと――。

「幸せだったらいいなあって思うんです」

 思わず、声に出てしまった。

「分かるよ。たった一度しか会っていなくてもずっと覚えてたから」

 誠さんの絞り出したような声が降ってきて、思わず見上げてしまう。
 そこには誠さんの慈しむような瞳があった。このうえなく愛しげに、そして過去を思い返すような表情だ。

「15年前、母と、その恋人と三人でここへ来たんだ。そこでふたりとはぐれてね。今思えばまかれてしまったんだろうけど」

 誠さんが話してくれたお母様との旅行は楽しかった親子旅行ではなく、お母様の恋人と三人で、それも邪魔者扱いされた記憶なのだと初めて知った。子供のころの誠さんを想像して、胸が痛む。

 誠さんの長い指が私の頬に触れる。

「ふたりを探している最中に人とぶつかって思い切り足をくじいてしまったんだ。自力で立ち上がることさえ急に億劫になって座り込んでいたら、どんくさいヤツだと遠目に見てくる人のなかを真っ直ぐ向かってきて、手を差し伸べてくれた少女がいたんだよ」

 ざあっと強く、胸の音を表すような風がふいた。私は彼を見上げたまま彼の語る過去に耳を傾ける。記憶の中で散り散りになっていたパズルのピースが当てはまるような感覚。
 太陽の光がキラキラと輝いて、まるで天然の万華鏡のように誠さんの髪の表面を漂っている。

「ゆきの、これがなにかわかる?」

「……あ……これは……」