砂糖に蜂蜜をかけるように、さらに甘い声で私を追い詰める。魔法の絨毯を想像しても、夢物語のような誠さんの言葉を鵜呑みにできるほど純粋ではない。けれどそれ以上聞ける勇気も、そもそも誠さんの過去の恋愛には目を瞑りたいような気さえして、私はただ赤くなって目を伏せる。私も案外、嫉妬深いのかもしれない。

「……もうじき分かるよ、きっと」

 誠さんが呟いた意味深な言葉が気になりつつ、私たちを乗せた車はアブダビからドバイへと進んだ。

 たちのぼるスパイスの香り。屋台を埋め尽くすカラフルな靴に、魔法の絨毯のようなエキゾチックな雑貨、中東のガラス装飾にアラビアンライト。
 辿り着いたのはスパイススーク。山盛りのスパイスは圧巻。

「誠さんがここを案内してくださるとおもいませんでした」

 つい先程タクシーのなかで前回母ときて迷子になった話をしたばかりだ。無意識に辺りを見渡して「少年」を探してしまう。いるはずがないし、いたとしてももう大人だ。すれ違っていたとしてもお互いに分からないだろう。

「さっき言っていた少年を探しているのか?」

「あ……はい。といってももう随分大人になっているでしょうし、顔も覚えていませんから奇跡的にすれ違っていたとしてもわからないですよね」