なぜか愛しげに優しく微笑んだ誠さんの口調は少し上機嫌。誠さんからしてみれば告白したわけでもない、ましてや9歳の子供で相手の名前も覚えていない。そんなの嫉妬するにも値しないのかもしれないけれど、なんだかちょっと悔しい。

「そういう誠さんは恋愛経験豊富そうですけど……どうだったんですか?」

 あ、聞いてしまった。自分で聞いておきながら耳を塞ぎたい気持ちになる。今は私だけ、それは信じているけれど過去は……いくらでも美人を侍らしていておかしくない。そんな姿が簡単に想像できてしまう。
 過去のこととはいえ聞く前からこんなにも胸がざわつくなんて。

「いないよ。確かに俺の肩書きが好きだという女性はいたけど、俺はずっとゆきのだけだ。今も昔も」

 じとっと拗ねるような視線を向けていたのに、それを甘い視線と言葉で返される。

「い、いま、は信じてますけど……」

 九条リゾートの御曹司であり副社長。その肩書きがなくてもルックスも醸し出される色気も気遣いも、その全てが女性を魅了するには十分過ぎる。そんな彼が「過去も私だけ」なはずがない。昨日の話であった、前職でお茶出しのときにすれ違ったときが初対面なのだから4年前。誠さんは既に成人している。そんな男性を、放っておくわけがない。

「信じられないって顔してるね。本当だよ。何度でも言うけど俺にはゆきのだけだから」