「ゆきののこと、もっと知りたいな……俺と出会う前の恋愛のこと、とか」

「恋愛、ですか……えっと……」

 ぽやっとした頭で、昨晩の通り、私は恋愛経験どころか男性に馴れてすらいなくて、ファーストキスも、なにもかも昨日、誠さんとしたのが初めてだった。誠さんもそれを知っているはずなのに、自分は経験豊富そうだからってちょっと意地悪だなと思う。

「片思い未満の話……でもいいですか?」

「……ああ、もちろん」

 私の頭を撫でていた手がピクリッと一瞬戸惑った。聞いておいて本当に男性と付き合った経験ないんだって思われたのかな。誠さんの腕が私を引き寄せて、肩にもたれかかる体勢になる。

「……えっと、さっき話した15年前、9歳のときにに母とドバイ・アブダビ旅行に着たんですけど、そこで、男の子に会ったんです。小学校高学年から中学生くらいの男の子でした」

 それから私が15年前のアブダビで、一人の男の子と出会った話をした。
 彼と出会ったのはドバイのスパイス・スーク。スパイスの香りと刺繍の靴に織物が溢れる場所で目移りしていた私は私は迷子になってしまった。

 泣きそうになりながら歩いていると、目の前でケガをしている男の子がいた。私はその子を見た瞬間、なぜか体が勝手に動いて、気付いたら手を差し伸べていた。
 とても、鋭くて寂しげな目をしている男の子だった。