皆息を殺して,ハラハラと見守る。

ーバトンが慧に渡った。

速い。

他の人よりも格段に。



「あっ」



声をあげたのは誰だっただろうか。

残り半分を前に,慧が体勢を崩す。

元々が慧よりも早いスタートだったため,唯一慧に食いついて走っていた選手が,慧を抜かそうとして足が接触したせいだ。



「慧!」



声を張り上げると,慧は目をカッと開く。

そして転倒の勢いのまま前に転がると,また走り出した。

膝と頭が痛そうな動きだった。

場が盛り上がる。

でも,もう係の男子の実況も,なにも聞こえなかった。

一瞬も見逃さないように目を開いて,その瞬間を見る。



ーパパンッ



少し差をつけてゴールしたのは,慧だ。



「は,はぁぁぁ」