本当はもうひとつ持って来ていたチョコレートを持って生徒会まで走った。

もう今や何度も通って当たり前になっていた場所、北校舎の最上階4階の左奥の教室まで。





暁先輩に会いたい。






息を切らしながらやって来た生徒会前、すぅはぁと数回呼吸を整えドアに手をかけた。

話し声が聞こえる。

…みんないるかな?

暁先輩だけじゃないかもしれないよね!?

そしたらいつ渡そうかな、こっそり呼び出してとか私に出来るかな!?


「………。」


もう一度深呼吸をしてドアを開けようと思った。

ゆっくり、静かに、そぉっと…


でもすぐに手が止まってしまった。


数センチ開けたドアの先に見えた。






暁先輩と花絵先輩。






窓際近くのところで何か話してる。

何を話してるかは聞こえないけど。






チョコレートを持っていた、花絵先輩が。






そのまま渡していた。



“俺やってないよ”



参加はしないって言っていた。


だからあれは花絵先輩が暁先輩に用意したもの…しか、ありえなくて。



後ろ姿で花絵先輩が今どんな顔をしてるのかわからない。


笑ってるの?


怒ってるの?


それともいつもみたいに無表情なの?






暁先輩は…



笑っていた。






でもね、そんな風に笑ってるの初めてだったんだ。

いつも微笑んでる暁先輩だけど、私は見たことがなかった。


柔らかくそれでいて温かい、愛しそうに。


溢れていた。



“暁先輩は何で青春リクエスション始めたんですか?”

“そんなのまんまだよ、笑顔が見たいから”



それって誰のですか?

誰のこと思ってたんですか?


きゅっと胸が締め付けられる。

気付かれないようにドアを閉めた。


そっか…

たとえ花絵先輩が馬淵先輩のことが好きでも、暁先輩が花絵先輩のことを好きなことだって…

違う、誰が花絵先輩は馬渕先輩が好きだなんて言ったの?

言ったのは私だ。

そんなの本人じゃなきゃわからないじゃん。


“付き合ってるらしいよ”


そう見えたぐらい2人にそう感じてたんだ、みんな。

言わなくても分かるでしょって、思ってたんだ。


なんだろうこれ…。


痛い。




すごく痛い…。