「アプリって裏工作出来ないのかな!?」

「無理だろ」

ホッチキスのパチンという音と共に吐き捨てるような凛空ちゃんの“無理だろ”がエコーのように響く。

今日はちゃんとした生徒会の仕事、生徒会誌作り。

いつもの長机にいつものように隣同士で座って、何枚もあるプリントをホッチキスで止めていく雑用の仕事は私たち1年のやること。

「盲点だったよね!すっごい楽しみだったのに、よく考えたら渡したい相手に渡せるとは限らないんだ…!」

「それに気づいてなかったの由夢だけだけどね」

「凛空ちゃん気付いてたの!?」

「みんなわかってたよ。でも俺ら男からしたら、もらえるとも限らないんだから最初からもらえるって約束されてるの悪くないかな~って。知らない子でも女の子からもらえたら嬉しいじゃん、交換だけど」

なるほど、そーゆう考えもあるか。確かに。

「それに相手がいてもいなくてもみんな参加できるし、もし知らない子だったらどんな子だろ~?って楽しみにもなるじゃん。そこに好きって気持ちがなくても楽しくない?」

パチン、パチン、と凛空ちゃんが手を止めることなくホッチキスを止めていく。
どんどん積み重なっていく生徒会誌。

「…楽しいかも」

「ね、バレンタインにみんなでチョコレート交換した~って絶対将来笑って話すじゃん。しかも学校全体でとかってなったら」

「そうだね、そんなこと普通しないもんね」

「そうそう、それがいいんだよ。なんかふわっとして」

「ふわっとって」

ふふって聞いてて笑っちゃった。

渡すことにこだわるあれじゃないんだ、これは。

リクエストだって好きな人に渡したいとは書いてなかったし、リクエストはチョコレートパーティだったんだもんね。

「でも交換相手が女の子とも限らないんだよね」

「そこもランダムだもんね」

「男だったらどうしよう…」

「めちゃくちゃ気まずいね…」

凛空ちゃんが遠くを見るように切ない顔をした。

凛空ちゃんの相手が女の子であるよう、せめて祈ってあげよう。

それと…

「ねぇ凛空ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「ん、何?スリーサイズ?それは上から…」

「いや、全然聞いてないけど。あの、馬渕先輩って何が好きかな?」

「マブ先輩?」

凛空ちゃんがホッチキスを置いた。代わりにずっと止まっていた私のホッチキスを動かし始めた。パチン、パチン、…と。

「芋けんぴが好きって言ってた、見ると買っちゃうって」

「へぇー、芋けんぴかぁ」

「うん、芋けんぴ……」

「おいしいもんねー」

パチン、パチン、と流れ作業で止めないように。

「あ、取り入る気だろ!?」

「すぐバレた!」

「マブ先輩にワイロ持ってって暁先輩と結ばれるよう裏工作してもらおうとしたんだろ!」

「だってやっぱ渡したいし、もらいたいんだもん!青リクメンバー特典ってないのかな~~~~!」

「青リクって言い方気に入ってんの由夢だけだけど!」