授業が終わるとすぐに生徒会へ凛空ちゃんと向かった。
今日は何をするんだろうって話しながら、急な招集はきっと生徒会の方じゃないよねって、次は何が待ってるんだろうって無意識に早足になった。

「新しいリクエストが…来てるよ」

生徒会室のドアを開けると、コーヒーカップ片手に窓の外をキメッキメの表情で見つめてる暁先輩が溜めに溜めて呟いた。
それは私たちが来るのを待っていたみたいに、ドアを開けた瞬間髪を掻き分けながら。

「10分くらいあの体制で井住さんたちが来るの待ってたのよ」

「あ、すみません!うちのクラス、ホームルーム長いで有名なんですよねっ」

「絶好調っすね、会長」

やっぱりスタンバってたらしい。そんなに舞い上がるほどいいリクエストが来たのか、まだ何も始まってないのに満足そうにふふんっと笑っていた。

「新学期一発目の青春リクエスション、俺はこれを叶えたいと思ってる!」

実は中身の入っていなかったコーヒーカップを長テーブルの上に置いて、代わりにスマホを手に持つ。

私たちに見せるように、画面を開いた。


“チョコレートパーティがしたい#青春リクエスション”


「え、楽しそう…!」

「でしょ、由夢ちゃん。楽しそうな響きでしょ」

パーティって言うだけど楽しそうなのに、それにチョコレートという史上最高の言葉が付いた。

それは一体何をするんだろう…!

「そんなことしてどうするのよ」

ピシャッと今日も花絵先輩の低音に砕かれたけど。

一瞬私の頭の中で作られた妄想☆チョコレートパーティも打ち砕かれた。

「というかチョコレートパーティって何?何を学校でしようとしてるの?」

…ごもっとも。
学校はそんなことするところじゃないけど、でも学校でするから楽しいんじゃないかな?とも思った。言えなかったけど、もちろんそんなこと。

「花絵ちゃん、これはカモフラージュだよ」

「カモフラージュ…?何のよ」

「きっとこのリクエスターはチョコレートでパーティがしたいわけじゃない、チョコレートを渡したいんだよ」

1月になるとお店にはチョコレートたちが凛々しい顔して並び始める。それはどれもおしゃれで可愛くて目を引く、女の子なら誰しも気にしてるあの日がもうすぐやって来る。

「2月14日はバレンタインだからね!」

街がそわそわすれば必然的にこっちもそわそわして来るわけで、そんな日が近づいて来てる。

「それを聞いても意味わからない」

花絵先輩には全く伝わってなかったけど。

「つまりは好きな人に渡しやすいようにじゃない?」

暁先輩がいつもの自分の席のパイプ椅子に座った。空っぽのコーヒーカップをもう一度手にして、覗いてみせる。

「片想いの子は渡しづらいじゃん、持ってくるだけでもドキドキして隠したくもなるじゃん」

そうなの。渡す前にバレるのも、誰かに見付かるのも、それは変に気にしちゃって。いつもは持ってない紙袋とか持って来ちゃうし。

「いかに自然にナチュラルにスムーズに渡せるか、それがバレンタインでしょ」

「暁…全部同じような意味じゃない」

「だから今年の愛和高校のバレンタインは大々的にやろう!2月14日はみんなでチョコレート交換だ!」

新しいリクエストが始まった。

暁先輩の声高らかな号令と共に、始動する青春リクエスション。

私もそれに参加したい、カモフラージュバレンタイン…!!!

「で、それはどうやってやるんですか?」

私のいつもの席に座った。早くその全貌を聞きたかったから。

「もうマブには頼んであるんだけど、バレンタイン仕様アプリをね!」

「Speaks以外にも何か始めるってことっすか?」

凛空ちゃんも座って、何も言わず花絵先輩も座った。

「うん、その日だけの特別アプリ。今試作品作ってもらってるから今日はマブは欠席なんだけど、みんなには情報共有として今日集まってもらったんだ。完成したら青春リクエスションの始まりだよ」