『だからいいから。私のことは心配しないで。律君は自分のことと、自分が好きな人のことを心配して。私は何とか元気にやってるし、これからも大丈夫だから。でも…うん、気にしてくれてありがとね』


律君…


優し過ぎるよ。


私は…


目の前にある思いやりについ甘えてしまいそうな気持ちを、無理やり押し殺した。


『ごめん、もう1人で帰るね。マンションもうすぐだし。いろいろありがとう、じゃあ』


律君の言葉を待たず、私は足早に歩き出した。


頭がこんがらがってるよ。


どうして私を抱きしめたの?


なぜ?


目の前に泣いてる人がいたら、誰にでもそんな風にするの?


だったら、もうこれ以上、私には優しくしないでよ…


振り返らずに歩く私の後ろ姿、たぶん律君はそれが見えなくなるまでずっと…見ててくれてる気がした。


きっとそういう人なんだ。


心が広過ぎる、人間として最高に素晴らしい人。


私はそう自分に言い聞かせ、よくわからない複雑な思いを無理やり胸の奥に押し込めた。