平均勤務時間は週70時間で、ほぼ家では寝るだけの生活。そんな生活を数年繰り返していると、正直学生の生活なんかとても暢気に見えてくる。彩響の嫌味に気付いたはずなのに、雛田くんはさらに顔を近づけて喋り出した。


「料理の勉強をしてるからこんなこと言ってるんだよ。だって、「食」は大事だよ?」

「はあ…。で、私にどうして欲しいの?」

「簡単だよ、1日1食以上、俺が作るご飯を食べること。それだけ守ってくれれば何も言わないよ。」

「さっきの話聞いてました?私は忙しすぎて家でご飯食べる余裕もありません。」

「ならお弁当作るから、会社で食べて。仕事していてもお昼くらい食べるでしょ?」


しつこい、うるさい、そして生意気。それが現状彩響がこの少年に抱く感情だった。なるべく気を使わないため最も年が離れた子を選んだのに、今の流れは最も面倒くさい状況になりつつある。一日一食以上を家で食べる?お弁当を持っていく?これだから学生は暢気だ、とか思うんだよ…。彩響の機嫌がどんどん悪くなる中、雛田くんはさらに積極的に自分の話を続けた。


「無視しないで、真剣に考えて。俺の兄貴が言ってたよ、『今あんたが食べるものが、6ヵ月後のあんたを決める』。だから、そう不満に思わないで、お互いのためもう少し協力してくれない?」

「協力もなにも、私は仕事で忙しいので。」

「そう言わずにー」

「ああ、もう!いい加減にしなさいよ!あなた、せいぜい18歳くらいでしょう?大人の世界はそんなに甘くありません。だから人の言うことを聞きなさい!」


結局彩響は大声を出してしまった。全く、最近の子供ってみんなこんな感じなの?しかし、イライラする彩響とは反対に、雛田くんはまだ余裕があるように見えた。


「まあ、落ち着いてよ。しかも俺成人だから。今21歳。」

「幼い事実には大して変わりありません。」

「俺のこと、ただのクソガキだと思ってる?」