「お疲れ様でした。今日は先に上ります」
「あ、お疲れさまです」
忙しい一日が又終わり、彩響は急いで会社を出た。そしてそのまま家に向かわず、別の方向へ急いだ。彩響が向かったのは、3日前に林渡くんが入院した病院。そして今日は彼の退院日だった。本人は一人でも問題ないと言っていたが、やはり一緒に家へ帰りたいと思ったので、今日は早めに仕事を切り上げた。病棟の個人室の前に立つと、中から話し声が聞こえてくる。その声の主たちが誰なのか、彩響はすぐ分かった。
「みなさん、こんにちは。久しぶりです」
「あ、峯野さん、こんにちは。久しぶりです」
中に入ると、以前会ったことのある家政夫たちが挨拶をする。まだベッドに座っていた林渡くんがこっちを見て嬉しそうな顔をした。
「彩響ちゃん、平気って言ったのに…。でも、来てくれてありがとう」
「いいえ、せっかく退院するのに一人じゃ寂しいかと思って。ーでも、皆さんがいたなら、私はいらなかったかな」
「そんな、会えて嬉しいです。どうぞこちらへおかけになってください」
今瀬さんが隣にあった椅子をこっちへ押してくれる。彩響はそこに座り、家政夫たちの顔を改めて見回した。まあ、以前も思ったけどやはりイケメンたちばっかりですなーこんなことを思いつつ、彩響は明るい声で皆に声をかけた。
「今日は皆さん揃って林渡くんのお見舞いですか?」
その質問に河原塚さんが軽く林渡くんの肩を叩いた。
「そうそう。最初びっくりしてさ。でもいざ来てみたら思ったよりはへっちゃらだった」
「成が大げさなだけ。大丈夫って言ったのに」
「良いじゃないですか、ついでに同窓会もできて。ですよね、寛一?」
「あ…うん」
静かにジュースを飲んでいた三和さんが頷く。今瀬さんはニコニコしながら話を続けた。
「で、峯野さん、どうですか?最近の林渡の仕事っぷりは」
「え?あーとても良く働いてくれてます」
「お、そりゃよかったぜ!『調子に乗りすぎてムカつくので家政夫交代してください』と問い合わせとか来たらどうしようと思ったからな」
悪意の無い河原塚さんの言葉に一瞬ビクッとする。いや、確かに一時期はそう思ったかもしれないけど…。彩響は他の人にバレないよう、こっそり横目で林渡の様子を探った。それに気づいたのか、林渡くんは河原塚さんを膝でとんと打った。
「なに言ってるの、俺と彩響ちゃんはちょー仲良しだから、余計な心配。ーね?」
「え?ええ…」
彩響の反応を疑いつつも、家政夫たちはそれ以上はなにも聞かなかった。代わりに彼らは最近の彼らの仕事とか、新しくできた美味しい店の話とか、そういう他愛のない話をしばらく続けた。話を聞きながら、彩響は彼らがとても仲良しで、お互いのことをよく理解していると分かった。
「ーじゃあ、俺たちも仕事があるからそろそろ帰るよ」
「そうしますか。林渡、体調管理も立派な仕事の一部だから、ちゃんとやってくださいね。峯野さんもお体に気をつけて」
「あ、はい。皆さんも」
3人は席から立ち上がり、ドアの方へ向かう。そしてそれまでほぼなにも喋らず、皆の話を聞いていただけだった三和さんが、突然彩響の方へ手を伸ばした。周りの視線が集まる中、三和さんがその重い口を開いた。
「ちょっと失礼」
そう言った三和さんが彩響の襟に触れる。なにかを言う暇もなく、三和さんは涼しい顔で彩響のシャツの襟の折れ曲がりを正した。その行為で、彩響はやっと自分の襟がずっと折れていたことに気づいた。襟を直した三和さんは満足したように微笑んだ。そう、まるで初めて彩響の家に来た、あの日のように。
「服装の乱れは心の乱れ、ですので」
「はあ…。どうも」
「ちょっと、軽々しく彩響ちゃんに触れないで」
「あ、お疲れさまです」
忙しい一日が又終わり、彩響は急いで会社を出た。そしてそのまま家に向かわず、別の方向へ急いだ。彩響が向かったのは、3日前に林渡くんが入院した病院。そして今日は彼の退院日だった。本人は一人でも問題ないと言っていたが、やはり一緒に家へ帰りたいと思ったので、今日は早めに仕事を切り上げた。病棟の個人室の前に立つと、中から話し声が聞こえてくる。その声の主たちが誰なのか、彩響はすぐ分かった。
「みなさん、こんにちは。久しぶりです」
「あ、峯野さん、こんにちは。久しぶりです」
中に入ると、以前会ったことのある家政夫たちが挨拶をする。まだベッドに座っていた林渡くんがこっちを見て嬉しそうな顔をした。
「彩響ちゃん、平気って言ったのに…。でも、来てくれてありがとう」
「いいえ、せっかく退院するのに一人じゃ寂しいかと思って。ーでも、皆さんがいたなら、私はいらなかったかな」
「そんな、会えて嬉しいです。どうぞこちらへおかけになってください」
今瀬さんが隣にあった椅子をこっちへ押してくれる。彩響はそこに座り、家政夫たちの顔を改めて見回した。まあ、以前も思ったけどやはりイケメンたちばっかりですなーこんなことを思いつつ、彩響は明るい声で皆に声をかけた。
「今日は皆さん揃って林渡くんのお見舞いですか?」
その質問に河原塚さんが軽く林渡くんの肩を叩いた。
「そうそう。最初びっくりしてさ。でもいざ来てみたら思ったよりはへっちゃらだった」
「成が大げさなだけ。大丈夫って言ったのに」
「良いじゃないですか、ついでに同窓会もできて。ですよね、寛一?」
「あ…うん」
静かにジュースを飲んでいた三和さんが頷く。今瀬さんはニコニコしながら話を続けた。
「で、峯野さん、どうですか?最近の林渡の仕事っぷりは」
「え?あーとても良く働いてくれてます」
「お、そりゃよかったぜ!『調子に乗りすぎてムカつくので家政夫交代してください』と問い合わせとか来たらどうしようと思ったからな」
悪意の無い河原塚さんの言葉に一瞬ビクッとする。いや、確かに一時期はそう思ったかもしれないけど…。彩響は他の人にバレないよう、こっそり横目で林渡の様子を探った。それに気づいたのか、林渡くんは河原塚さんを膝でとんと打った。
「なに言ってるの、俺と彩響ちゃんはちょー仲良しだから、余計な心配。ーね?」
「え?ええ…」
彩響の反応を疑いつつも、家政夫たちはそれ以上はなにも聞かなかった。代わりに彼らは最近の彼らの仕事とか、新しくできた美味しい店の話とか、そういう他愛のない話をしばらく続けた。話を聞きながら、彩響は彼らがとても仲良しで、お互いのことをよく理解していると分かった。
「ーじゃあ、俺たちも仕事があるからそろそろ帰るよ」
「そうしますか。林渡、体調管理も立派な仕事の一部だから、ちゃんとやってくださいね。峯野さんもお体に気をつけて」
「あ、はい。皆さんも」
3人は席から立ち上がり、ドアの方へ向かう。そしてそれまでほぼなにも喋らず、皆の話を聞いていただけだった三和さんが、突然彩響の方へ手を伸ばした。周りの視線が集まる中、三和さんがその重い口を開いた。
「ちょっと失礼」
そう言った三和さんが彩響の襟に触れる。なにかを言う暇もなく、三和さんは涼しい顔で彩響のシャツの襟の折れ曲がりを正した。その行為で、彩響はやっと自分の襟がずっと折れていたことに気づいた。襟を直した三和さんは満足したように微笑んだ。そう、まるで初めて彩響の家に来た、あの日のように。
「服装の乱れは心の乱れ、ですので」
「はあ…。どうも」
「ちょっと、軽々しく彩響ちゃんに触れないで」