時刻は夜の10時。彩響はレジ袋を片手で持ち、玄関を開けた。せっかくならもっとちゃんとした食べ物を買ってきたかったけど、結局今日も残業まつりで、会社を出る頃はもうほとんどのお店は閉まっていた。
仕方なく駅前のコンビニによりアイスを何個か買った。これでも食べると、少しは話が進むのかな…。そう漠然とした期待を抱いて彩響は暗いリビングへ入った。
「ただいまー。林渡くん、いる?」
いつもだったら彩響がリビングに入る前に迎えてくれるのに、今日は家中が静かだ。どこか出かけたのかな?とりあえず買ってきたアイスを冷凍庫に入れると、奥の部屋から物音が聞こえた。なんだ、部屋にいたんだ。彩響はドアに軽くノックした。
「林渡くん?もう寝てるの?」
「…」
しばらく待っても返事がない。彩響はドアを開け、隙間から中を覗いた。暗い部屋の中、布団を頭まで被り寝ている林渡くんが見える。こんな時間に寝るなんて、珍しいこともあるものだ。そのままドアを閉めようとした瞬間、中から又何か音が聞こえた。寝言?いや、違う、これは... 彩響はドアを開け、布団をめくり顔を確認した。
「林渡くん…?どうしたの?大丈夫?」
「あ…彩響ちゃん…お帰り……。ごめん、夕飯準備できてなくて…。」
「何言ってるの?!体すごく熱いよ、調子悪いの?いつから?」
林渡くんの目は朦朧としている。下に敷いてあったシーツが冷や汗でびっしょり濡れたのを見るだけで、彼が今危ない状況だとすぐ分かった。彩響は慌てて体温計を持ってきて林渡くんの脇に突っ込んだ。すると…
(40度1分?!嘘でしょう…。)
信じられない結果に今度はこっちが冷や汗が出る。彩響は慌ててその場で立ち上がった。早く救急車を呼ばないと…!一旦部屋を出ようとした瞬間、後ろから何かに引っ張られる感覚で足が止まった。振り向くと、林渡くんが彩響の裾を掴んでいた。
「林渡くん?どうしたの?」
「い、行かないで…」
とても辛そうなのに、呼吸も荒いのに、林渡くんが必死で自分を止めようとするのが伝わってくる。どうすれば良いのか、しばらく悩み、彩響はベッドの隣に座った。そしてギュッと林渡くんの手を握った。少し驚いたのか、林渡くんがビクッとするのを感じる。それでも彼は手を引いたりはしなかった。
「林渡くん、よく聞いて。あなた熱がすごいの。今すぐ病院に行って診察してもらいましょう。このままだと危ないよ。」
「……」
「救急車呼んでくるから。ちょっとだけ待ってて。」
あやすように言っても、林渡くんは手を離そうとしない。なにがそんなに不安なのか、どうすれば良いのかー彩響が悩む中、林渡くんが口を開いた。
「…ても…し…よね…?」
「なに?ごめん、よく聞こえないー」
「これ、離しても…消えたり…しない…よ…ね…?」
とぎれとぎれに話すその言葉は辛くて、とても悲しそうにも聞こえた。彼は一体今、誰を思い出してこんなことを聞いているのだろうか。彩響は深呼吸して、ゆっくり答えた。
「そうよ。私は消えたりしないから、安心して。」
「……」
「助けを呼ぶだけ。すぐ戻ってくるから。」
彩響のことばに、やっと手が離れた。林渡くんは目を閉じ、苦しく息をつく。彩響は急いで部屋を出て、スマホで救急車を呼んだ。
すぐ来てくれるとの確認をもらい、彩響は再び部屋に戻った。林渡くんは相変わらず意識が朦朧としている状況だった。
「林渡くん、少しだけ耐えて。すぐ救急車がくるから。」
「…うん…。」
このまま本当に深刻な状況になったら…いや、大丈夫。不安な気持ちを必死で抑え、彩響は又林渡くんの手をギュッと握った。今はただ祈るほかなかった。
「一旦解熱剤を使って熱を下げました。インフルエンザの検査結果も陰性だったし、おそらく疲労が原因で体に負担がかかったのでしょう。ただ熱が結構高かったので、念の為今夜は入院して様子をみましょう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
病院で色々と検査を行った結果、林渡くんは一晩入院することになった。入院の手続きをするため窓口に行くと、受付の人が質問する。
「入院にはご家族の同意が必要ですが、ご家族さまですか?」
「あ、私は…」
なんて答えればいいのか迷う。彩響は少し悩み、一番無難な返事をした。
「いいえ、違います。私はただの知り合いです。」
「では、ご家族さんに連絡はできますか?」
「…ちょっと待ってください。」
鞄からポーチを出し、そこから名刺一枚を出す。これは以前林渡くんのお兄さんに出会った時、「なにかあれば連絡くれ」と言われながら貰ったものだった。当時は必要ないと思ったけど、まさかこんなことで使うことになるとは。書かれている番号に電話をかけると、早速雛田さんが出た。
「はい、雛田です。」
「あ、こんばんは。私、峯野です。」
「峯野さん?どうされましたか、こんな時間に。」
「すみません、実は林渡くんが高熱を出して…。」
「え?林渡がですか?」
「はい、一旦熱は下がったのですが、様子見で入院を勧められて、今手続き中です。ご家族が必要とのことですので、来ていただけますか?」
「病院の場所教えて下さい。すぐ行きます!」
仕方なく駅前のコンビニによりアイスを何個か買った。これでも食べると、少しは話が進むのかな…。そう漠然とした期待を抱いて彩響は暗いリビングへ入った。
「ただいまー。林渡くん、いる?」
いつもだったら彩響がリビングに入る前に迎えてくれるのに、今日は家中が静かだ。どこか出かけたのかな?とりあえず買ってきたアイスを冷凍庫に入れると、奥の部屋から物音が聞こえた。なんだ、部屋にいたんだ。彩響はドアに軽くノックした。
「林渡くん?もう寝てるの?」
「…」
しばらく待っても返事がない。彩響はドアを開け、隙間から中を覗いた。暗い部屋の中、布団を頭まで被り寝ている林渡くんが見える。こんな時間に寝るなんて、珍しいこともあるものだ。そのままドアを閉めようとした瞬間、中から又何か音が聞こえた。寝言?いや、違う、これは... 彩響はドアを開け、布団をめくり顔を確認した。
「林渡くん…?どうしたの?大丈夫?」
「あ…彩響ちゃん…お帰り……。ごめん、夕飯準備できてなくて…。」
「何言ってるの?!体すごく熱いよ、調子悪いの?いつから?」
林渡くんの目は朦朧としている。下に敷いてあったシーツが冷や汗でびっしょり濡れたのを見るだけで、彼が今危ない状況だとすぐ分かった。彩響は慌てて体温計を持ってきて林渡くんの脇に突っ込んだ。すると…
(40度1分?!嘘でしょう…。)
信じられない結果に今度はこっちが冷や汗が出る。彩響は慌ててその場で立ち上がった。早く救急車を呼ばないと…!一旦部屋を出ようとした瞬間、後ろから何かに引っ張られる感覚で足が止まった。振り向くと、林渡くんが彩響の裾を掴んでいた。
「林渡くん?どうしたの?」
「い、行かないで…」
とても辛そうなのに、呼吸も荒いのに、林渡くんが必死で自分を止めようとするのが伝わってくる。どうすれば良いのか、しばらく悩み、彩響はベッドの隣に座った。そしてギュッと林渡くんの手を握った。少し驚いたのか、林渡くんがビクッとするのを感じる。それでも彼は手を引いたりはしなかった。
「林渡くん、よく聞いて。あなた熱がすごいの。今すぐ病院に行って診察してもらいましょう。このままだと危ないよ。」
「……」
「救急車呼んでくるから。ちょっとだけ待ってて。」
あやすように言っても、林渡くんは手を離そうとしない。なにがそんなに不安なのか、どうすれば良いのかー彩響が悩む中、林渡くんが口を開いた。
「…ても…し…よね…?」
「なに?ごめん、よく聞こえないー」
「これ、離しても…消えたり…しない…よ…ね…?」
とぎれとぎれに話すその言葉は辛くて、とても悲しそうにも聞こえた。彼は一体今、誰を思い出してこんなことを聞いているのだろうか。彩響は深呼吸して、ゆっくり答えた。
「そうよ。私は消えたりしないから、安心して。」
「……」
「助けを呼ぶだけ。すぐ戻ってくるから。」
彩響のことばに、やっと手が離れた。林渡くんは目を閉じ、苦しく息をつく。彩響は急いで部屋を出て、スマホで救急車を呼んだ。
すぐ来てくれるとの確認をもらい、彩響は再び部屋に戻った。林渡くんは相変わらず意識が朦朧としている状況だった。
「林渡くん、少しだけ耐えて。すぐ救急車がくるから。」
「…うん…。」
このまま本当に深刻な状況になったら…いや、大丈夫。不安な気持ちを必死で抑え、彩響は又林渡くんの手をギュッと握った。今はただ祈るほかなかった。
「一旦解熱剤を使って熱を下げました。インフルエンザの検査結果も陰性だったし、おそらく疲労が原因で体に負担がかかったのでしょう。ただ熱が結構高かったので、念の為今夜は入院して様子をみましょう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
病院で色々と検査を行った結果、林渡くんは一晩入院することになった。入院の手続きをするため窓口に行くと、受付の人が質問する。
「入院にはご家族の同意が必要ですが、ご家族さまですか?」
「あ、私は…」
なんて答えればいいのか迷う。彩響は少し悩み、一番無難な返事をした。
「いいえ、違います。私はただの知り合いです。」
「では、ご家族さんに連絡はできますか?」
「…ちょっと待ってください。」
鞄からポーチを出し、そこから名刺一枚を出す。これは以前林渡くんのお兄さんに出会った時、「なにかあれば連絡くれ」と言われながら貰ったものだった。当時は必要ないと思ったけど、まさかこんなことで使うことになるとは。書かれている番号に電話をかけると、早速雛田さんが出た。
「はい、雛田です。」
「あ、こんばんは。私、峯野です。」
「峯野さん?どうされましたか、こんな時間に。」
「すみません、実は林渡くんが高熱を出して…。」
「え?林渡がですか?」
「はい、一旦熱は下がったのですが、様子見で入院を勧められて、今手続き中です。ご家族が必要とのことですので、来ていただけますか?」
「病院の場所教えて下さい。すぐ行きます!」