彼が指差す先には、ドーナツの袋と食べ残しが散らかっていた。言われた通り、昨日夜遅くまで仕事をしながら食べたものだ。もうこのドーナツ屋さんには、店長さんに顔を覚えられるほどお世話になっている。

まあ自分でもこんなもので食事を済ませてしまうのはよくないと理解しているけど…いざ指摘されるとムカッとしてきた。


「確かに昨日これを夕食に食べましたけど…そこ、別に気にしなくても。」

「もちろん気にするよ!だって、俺、家政夫だし、それが俺の仕事だし。」


あーそうか。どうやら若い少年はやる気に溢れていたらしい。気持ちは嬉しいが、正直今の彩響にはとても面倒い話でもあった。彩響は持っていたコップを下ろし、姿勢を改めた。この生意気なガキに、社会の厳しさを教えてあげる時だ。そう思い、彩響は口を開けた。


「雛田林渡くん、だよね?ここで改めて言っておくけど、私は忙しいんです。忙しすぎて、家事をやってくれる人が必要だったから、あなたを雇ったのです。なのであなたは、この家を掃除して、私の洋服を洗濯してくれれば結構です。私がなにを食べるかは気にしないでください。」

「彩響ちゃん、今はまだ若いし、運良く病気にかかってないけど、そのうち大変なことになるよ。」

「ご心配ありがとう。でも私はこれまでのスタイルを変える気はないし、野菜を切っている暇もありません。あなた、料理専門学校の生徒なんでしょう?だったらラッキーだと思って、そっちに集中したらどうですか?学生の仕事はお勉強ですから。」