弁当箱に入っているおにぎりを一個取り、もぐもぐしながらパソコンの画面を見続ける。最近は更に業務量が増えたことを聞いた家の家政夫さんは、仕事しながら食べられるようなメニューを作ってくれている。昨日サンドイッチで、今日はおにぎり。その気遣いに感心しながら、彩響はモニターの資料を読み続けた。
弁当の中身が空になった頃、机の上においてあったスマホが鳴った。画面に浮かんだ発信者を確認した彩響がすぐ電話に出た。
ー「やぁ、ハニー。ひっさしぶりだね。元気にしてたかな?」
これは、いつもお世話になっているあのCinderella社の社長さんの声だ。彩響も明るい声で返事した。
「Mr.Pink。ご無沙汰しております。お元気ですか?」
「私はいつも元気だよ。そしてうちのスタッフはどうかね?」
あ、そういえば思い出した。最初一ヶ月でクビにしてやるとか言っていたけど、色々あってすっかり忘れていた。いや、もうクビにしたい気持ちは消えていて、むしろなにも考えずにそんなことを言ってしまった自分が恥ずかしくなった。ここは素直に謝った方がいいだろう。そう思った彩響は改めて謝罪した。
「あの…先日はすみません。私が軽率でした。り…いや、雛田くんはとてもうまくやっております。」
「それはよかった。一ヶ月経ってもハニーから連絡がなかったので、ある程度は予想していたけどね。以前も言ったけど、彼はとても優秀なスタッフだから。」
Mr.Pinkは彩響の反応を予想していたかのように笑う。なんだかんだ言って林渡くんとはまあ無難に過ごしているし、今はそこまでイライラすることもない。むしろ…。
ー「俺、別になんの力もないけど、少しは彩響ちゃんの気持ち分かってるはずだから。
だから、辛いときは俺に言って。」
むしろ、今は結構頼りに…しているかもしれない。一緒に料理して、色々慰めてもらって…。無意識の中、何回も手を握られたことまで思い出し、なぜか顔が熱くなる。彩響は相手に気づかれないよう話題を変えた。
「ええ、まあ…。それより、どうしましたか?私になにか御用でも?」
「そう、実はハニーに会いたがっている人がいてね。」
「…私にですか?」
「詳しい話は会ってから話そう。ハニーの都合のよいときに一回こっちへ来てほしいのだが、いつがいいかね?できれば今日でも構わない。」
今日は丁度外勤の予定があって、その後はそのまま退勤の予定だ。彩響はパソコンを閉じて返事した。
「分かりました。では、午後4時くらいにそっちへ向かいます。」
久しぶりに訪問するCinderella社のオフィスは特に変わりもなく、落ち着いた雰囲気だった。チャイムを鳴らすと、初めてここを訪問した日と同じくMr.Pinkが出てきた。
「ハニー。会えて嬉しいよ。そして、来てくれてありがとう。」
「こんにちは、Mr.Pink。お久しぶりです。」
やはり、このピンク色のスーツは本当何回見てもなれないわ…と思いながら、彩響は案内されるまま中へ入った。すると、ソファーに座っていた誰かが立ち上がるのが見えた。背が高く、きちんと着こなしたスーツがとても似合う好印象の男性はこっちを見て微笑んだ。
「あなたが峯野彩響さんですね?」
「ええ、そうですが…」
「あ、挨拶が遅れました。いつも弟が大変お世話になっております。」
(「弟」…?)
その言葉に、彩響は思わず「あー」と声を出す。それに気づいた相手がニッコリ笑った。
「はじめまして、峯野さん。私、雛田知晶と申しまして、林渡の兄です。会えて嬉しいです。」
弁当の中身が空になった頃、机の上においてあったスマホが鳴った。画面に浮かんだ発信者を確認した彩響がすぐ電話に出た。
ー「やぁ、ハニー。ひっさしぶりだね。元気にしてたかな?」
これは、いつもお世話になっているあのCinderella社の社長さんの声だ。彩響も明るい声で返事した。
「Mr.Pink。ご無沙汰しております。お元気ですか?」
「私はいつも元気だよ。そしてうちのスタッフはどうかね?」
あ、そういえば思い出した。最初一ヶ月でクビにしてやるとか言っていたけど、色々あってすっかり忘れていた。いや、もうクビにしたい気持ちは消えていて、むしろなにも考えずにそんなことを言ってしまった自分が恥ずかしくなった。ここは素直に謝った方がいいだろう。そう思った彩響は改めて謝罪した。
「あの…先日はすみません。私が軽率でした。り…いや、雛田くんはとてもうまくやっております。」
「それはよかった。一ヶ月経ってもハニーから連絡がなかったので、ある程度は予想していたけどね。以前も言ったけど、彼はとても優秀なスタッフだから。」
Mr.Pinkは彩響の反応を予想していたかのように笑う。なんだかんだ言って林渡くんとはまあ無難に過ごしているし、今はそこまでイライラすることもない。むしろ…。
ー「俺、別になんの力もないけど、少しは彩響ちゃんの気持ち分かってるはずだから。
だから、辛いときは俺に言って。」
むしろ、今は結構頼りに…しているかもしれない。一緒に料理して、色々慰めてもらって…。無意識の中、何回も手を握られたことまで思い出し、なぜか顔が熱くなる。彩響は相手に気づかれないよう話題を変えた。
「ええ、まあ…。それより、どうしましたか?私になにか御用でも?」
「そう、実はハニーに会いたがっている人がいてね。」
「…私にですか?」
「詳しい話は会ってから話そう。ハニーの都合のよいときに一回こっちへ来てほしいのだが、いつがいいかね?できれば今日でも構わない。」
今日は丁度外勤の予定があって、その後はそのまま退勤の予定だ。彩響はパソコンを閉じて返事した。
「分かりました。では、午後4時くらいにそっちへ向かいます。」
久しぶりに訪問するCinderella社のオフィスは特に変わりもなく、落ち着いた雰囲気だった。チャイムを鳴らすと、初めてここを訪問した日と同じくMr.Pinkが出てきた。
「ハニー。会えて嬉しいよ。そして、来てくれてありがとう。」
「こんにちは、Mr.Pink。お久しぶりです。」
やはり、このピンク色のスーツは本当何回見てもなれないわ…と思いながら、彩響は案内されるまま中へ入った。すると、ソファーに座っていた誰かが立ち上がるのが見えた。背が高く、きちんと着こなしたスーツがとても似合う好印象の男性はこっちを見て微笑んだ。
「あなたが峯野彩響さんですね?」
「ええ、そうですが…」
「あ、挨拶が遅れました。いつも弟が大変お世話になっております。」
(「弟」…?)
その言葉に、彩響は思わず「あー」と声を出す。それに気づいた相手がニッコリ笑った。
「はじめまして、峯野さん。私、雛田知晶と申しまして、林渡の兄です。会えて嬉しいです。」