「では、こっちがこれから雛田くんが使う部屋です。なにか必要なものがあったら言ってください。」


契約の手続きが終わり、早速雛田くんは彩響の家へやってきた。彩響の案内を受け部屋に入った彼は、ウキウキした様子で部屋を見回した。


「以前も思ったけど、彩響ちゃんってすごいね。まだ若いのに、こんな立派なマンションに住めて。」

(…若い?)


十代の少年に言われるようなことではない気がするが、彩響は気にしないことにした。そう、少しでも楽になるため入居家政夫まで雇ったわけだし、必要以上のことは気にしない。未だに自分のことを「ちゃん」付けするのもどうかと思うけど、それもあえて気にしないことにした。


「…では、私は仕事に戻りますので、なにかあったら呼んでください。」

「はーい。」


そのまま彩響は食卓に戻り、ノートパソコンを立ち上げた。週末ではあるが、決して仕事を休めるわけではない。山のように溜まっている業務を週末に少しでも処理しておかないと、やってくる月曜日が怖くなるからだ。癖のようにカップに入れていたコーヒーを飲んでいると、早速雛田くんがこっちへやってきた。軽くシンク台を確認すると、彼が彩響の反対側へ座った。


「ーで、さっそくだけど。今後彩響ちゃんの食習慣と生活パターンについてお話をしたく。」


(…食習慣?生活パターン?)


一体この少年はなにを言っているんだろうか。そんな、家庭科の教科書に出そうな単語を言われるなんて、予想もしなかった。
彩響の反応に気づいたのか、雛田くんが話を続けた。


「ほら、今だって昼時なのに、コーヒーだけ飲んでいるから。ご飯食べないの?」

「いや、今は忙しいので…。」

「ダメだよ。それに、これはドーナツの袋でしょう?これは昨日の夕飯で食べたの?」