商品価値とは一体なんだ。今までこんなにも頑張って来た自分の人生は、結局男に選ばれる判断基準に過ぎない、そうとでも言いたいんだろうか。

話を聞けば聞くほど胸が苦しくなるけど、やはり母には抵抗できない。なぜなら相手は聖なる母で、自分は命を授かった娘で、成人になるまで面倒を見てもらったのは確かなのでー。


(…そうだ。会社の話をしてみよう。)


いくら娘の仕事に興味のない母でも、売り上げを25%も増量したと話せば、なにか反応を見せるだろう。きっとこれのことで年末のボーナスにも影響があるはずだし、お金大好きな母だから、ボーナスの話もしてみよう。もしかしたら、褒めてくれるかもしれない。もしかしたら、もしかしたら…。


「お母さん。実は私、以前先月凄い気難しいハリウッド女優とのインタビューに成功して、担当している雑誌の売り上げが先月に比べて25%も上がったんです。これできっと年末のボーナスにも影響あると思うし、お母さんなんか変えたい家電とかあります?ボーナス貰ったらなんか買ってあげますよ。」

母はしばらく驚いた様子で彩響をじっと見た。その視線の終わりに何を言われるか、想像するだけで彩響の心臓がばくばくする。やがて、開かれた母の口からこんな言葉が流れた。

「彩響。今私の話ちゃんと聞いてた?これだからあなたが早く結婚できないわけよ。いい?男はね、自分より偉いと思う相手を負担に思うのよ。武宏もだから愛想つかされたんじゃないの?あなたがずっとそうやって偉そうに言うから。」

「え…。」

「なによ、その顔。私はあなたのために言っているのよ。相変わらず人の助言を受け入れない子ね。全く、本当父親そっくり。」

「ーお待たせいたしました。海鮮のトマトパスタでございます。」


タイミングがいいのか悪いのか、丁度料理が運ばれた。思いっきり暴言を吐いた母は一口パスタを食べ、最後の最後まで文句を吐き出した。


「あんたのせいで料理もまずいわ。次会うときはもうちょっとマシな話を持ってきなさい。」


(疲れた…。)

比較的空いている電車の席に座り、彩響は遠い目で窓の向こうの風景を見つめた。いや、風景なんか目に入るわけがない。少しはスッキリすると思ってため息をつけいてみても、胸の奥底で岩のように沈んでいる思い感情をなんとかすることは出来なかった。

母は最後の最後まで彩響に文句を言って、再び父の悪口を言って、お店の料理の味が口に合わなかったことまで彩響を責めた。そこまで言っておきながらも、娘が年末ボーナスを貰うことには興味深々で、その話をするときだけはほんの一瞬の笑顔を見せた。


ー「ボーナスはいくらくらい出そうなの?私、冷蔵庫をそろそろ変えたいんだけど。丁度気になってたモデルがあるから、後で連絡するよ。」


「はあ…。」


母の言葉はなにもかも毒のようで、聞く度に心臓が溶けるような痛みを感じるけど、結局本人の前ではなにも言えない。武宏との結婚が進んでいた時は少し落ち着くかと思ったけど、破婚した後は結局元の母に戻ってしまった。