いきなり名前を呼ばれ、彩響はビクッとした。皆の視線を感じる中、大山が気持ち悪い微笑みを見せる。そして彩響は嫌な予感を感じた。


「お前が行けよ、このインタビュー。できるだろ?」


ーそして、その予感はやはり外れなかった。彩響はあえてなんでもないように表情を整えて答えた。


「なぜ私ですか?芸能関係の仕事ならエンタメ部署が別であると思いますが。」

「はあ?なに言ってるんだ。こういう時こそ「女」であるてめぇの出番だろ!女同士仲良くやって来いよ!それともなんだ、まさか出来ないっていうのか?入社7年も経って、主任とか肩書まで付けておいて、インタビューの一つくらいもきちんと出来ないと言うのか?!」


普段は「これだから女は迷惑なんだよ」という言葉を口癖のように言っているくせに、こういうことになると真っ先に自分に投げつける。今更でもないが、今回はやけに力が抜ける。それでもそういう気持ちを噯気にも出さず、彩響は普通に返事をした。


「承知しました。私が引き受けます。」

「ははっ、そう来なくちゃ!ちゃーんといいインタビューして来いよ、主任さんよ!」


そう言って、大山部長はオフィスを出ていった。しーんとした空気の中、彩響はなにも言わずそのまま自分の席へ座った。自分の様子を探るような気まずい空気の中、やはり真っ先に声をかけてくれたのは佐藤くんだった。


「主任…。」

「あ、大丈夫。インタビューくらいなんともないから。」

「いや、それが…あの女優、相当性格悪いらしいっすよ。ハリウッドでは有名なトラブルメーカーとかなんとか。基本上から目線だし、コメディ番組に出てアメリカ大統領をディスすることもあったらしく。」

「え、本当に?そういうタイプだったの?でいうか佐藤くんなんでそんな詳しいの?」

「さっきのミュージカル映画、俺劇場で見てすごい良かったから、調べたんすよ。したらなんかこう…すごい性格で…。」


彩響は急いで『レイチェル・サイフリッド』という名前を検索してみた。そして、何個かネット記事をクリックして見て、佐藤くんの話が嘘ではないことを知った。


『俳優のダニエル・エバートと同じ映画で出演したことで恋人になり、同居を始めるが、その家で映画のスタッフと不倫している現場をダニエルに発見される。

そのことで世間からディスられることになるが、本人はそこまで気にしないらしく、街でパパラッチに遭遇すると普通に真ん中の指を立たせた。

その後も様々なスキャンダルやトラブルを起こし、ハリウッドではまさしく「トラブルの女王」というあだ名がつき…。』


読むだけで頭が痛くなってきた。そうか、こういうのを知っているからあの編集長の野郎がわざと自分を指定したわけだ。彩響が頭を抱えるのを見た佐藤くんが心配そうに言う。


「主任…大丈夫っすか?やはり今回の件は主任一人で抱えるのではなく、別の人と相談したほうが…」

「いいえ!なにも言わないで。なんとかするから。」

「はあ…。」

大山のやつ、絶対あのトラブルメーカーの女優に振り回されて終わることを想定しているんだろう。人を舐めやがって…!そう考えると、意地でもこのインタビューを成功させなきゃいけないと思えてきた。

(でも、どうしたことか…先に中指立たせられるんじゃないの…??)

いくら考えてもいい対策案は出てこない。彩響は長い溜息をついた。