(あいつ、仕事頑張りたいとか言い出すから、少しは優しく見守ってあげようと思ったのに又狎れやがって…)


最後の米一粒まで食べた後、彩響はペットボトルのお茶をガブガブ飲み干した。そうだ、食べ物に罪はない。美味しいものは美味しく頂いて、あの生意気なガキには年上女性の余裕を見せてあげればいいのだ。そう思ってお弁当箱を片付けていると、向こうからなにか騒がしい音が聞こえた。そして間もなくして、オフィスの扉がパンと開かれた。


「おーい。ちょっと皆の衆集まってみろ。」


中に入ってきたのは大山編集長で、その後ろを他の社員たちが追いかけて来る。何事かと思いじっと見ていると、編集長が開いている机の上に何かを出した。自然とそこにいた全員の視線がそのなにかに集中する。彩響も社員たちに混ざり、それを見た。


(映画のポスター?)


それは最近劇場で公開されたミュージカル映画のポスターで、世界的にいい成績を出していると話題になっていると、ネット記事で読んで知っていた。で、これがどうしたの?疑問を抱く皆の前で編集長がのさばりながら言い続けた。


「ここの主演女優、お前らも知ってるだろ?あのハリウッドでもセクシーアイコンとして名高い『レイチェル・サイフリッド』だよ。で、今回来日するんだけど、うちの会社でこの女優にインタビューをすることになったわけよ。」


その言葉に社員たちの間でザワザワする声が広がる。彩響の横に立っていた佐藤くんも目をキラキラさせるのが見えて、彩響は改めてこの女優が男性たちには相当ホットアイコンであることを実感した。

いや、確かにすごいセクシーでキレイだけど、そんなこととは関係なく…なんで家の会社でインタビューを?彩響と同じ疑問を抱いた誰かが先に質問した。


「編集長、どうして彼女がうちとインタビューを?」

「は!俺のコネだよ、コネ。本木健先生の小説が今度映画化されるけど、そこに出演することになって。で、本木先生が、特別に!俺に!インタビューをするようお願いしたんだ!!」

「なんで本木先生がその女優とインタビューするよううちに『お願い』するんすか?意味分かんねぇなー」


彩響の耳元に佐藤くんが小さい声で囁く。彩響は苦笑いしながら、誰にも気づかれないように軽く首を横に振った。

本木健先生は有名な小説家で、彩響も何回か取材でお話をしたことがある。とてもお人好しで、おそらく編集長のお願いでなんとか橋渡しをしてくれたんだろう。そんなことをぼんやり考えていると、編集長がみんなを見回しながら話を続けた。


「こんな機会、なかなかないからな、絶対この女優の機嫌とっていいインタビュー取ってこないといけねーんだよ。ーおい、峯野!」

「は、はい?!」