「主任!今日はお昼どうします?俺今からコンビニ行きますけど。」

会議が終わった後、ファイルを片付けて会議室から出ると佐藤くんが声をかけてきた。そうか、もうそんな時間か。いつもならコンビニでサンドイッチや弁当を買うか、もしくは又例のドーナツを食べる時間だけど、今日は違う。なぜなら…。


「あ、今日は大丈夫。お弁当がありますので。」

「ええー?!マジっすか!又例のお弁当の子ですか?いいな〜俺も弁当作ってくれる人欲しいなー」


(…お金払って入居家政夫雇えば、君もお弁当作ってもらえるよ。多分。)


そう思いながら、彩響は自分の席に戻りタッパーの蓋を開けた。今日のメニューは三色そぼろ丼か。相変わらず色味といい、匂いといい、完璧なビジュアルだ。そしてもちろん味も…。


「…美味しい。美味しいけど…!!!」


21歳、若いーいや、幼い家政夫くんを雇って約3週間。今のところ、家はピカピカで、洋服はキレイにまとまっていて、ご飯は美味しい。仕事自体はなんの問題もない。ただ…!


「あいつ、やっぱりムカつく!生意気!やっぱクソガキ!」


そう言って、彩響はご飯を口の中へ掻き込んだ。こんなにムカつくのに、相変わらず美味しいと思ってしまう自分自身にそろそろ呆れてきた。


(どこかのエロマンガでもあるまいし、口ではいやいや言いながらも体は喜んでいるんだよな…はあ…。)





ーそれは、今朝の出来事。

ピピピーピピピー!

(ううん…もうこんな時間…)

会社員なら誰もが苦しむ時間。そう、あともう5分だけ寝るか寝ないかについて深刻に悩む瞬間。彩響ももちろん、アラームを消した後ベッドの中で苦しんでいた。後もう少しだけ寝たい、後もう少しだけこのまま…。


「彩響ちゃん!!起きてー!もう起きる時間でしょう??」

「嫌だ…後5分だけ…。」

「ダメだよ、朝ごはん作っておいたから食べて。早く!」


そしてその願いは、耳元で聞こえる声に邪魔されてしまった。彩響は眉間にシワを寄せ、あえてその声を無視しようとした。なんだよ、うるさいな…こんな近い距離で大きい声を出すとか、マジ勘弁して欲しい…って、え?

なんだか違和感を感じ、ゆっくりと瞼を開ける。すると、そこに丸い2つの目が見えた。息が届くほどの近い距離。そこに最近雇ったあの家政夫くんがいることに気づいた瞬間、彩響は思いっきり悲鳴を上げてしまった。


「きゃぁーーー!!!」

「あ、起きた。おはよう、彩響ちゃん。朝だよ!」

「り、り、林渡くん?!ここでなにやってるの?!」

「アラームなっても起きないから起こしに来たよ。目覚めた?」