「うわ、大変そう。そしてすごいよ、毎月締め切り地獄だろ?よく7年もやってきたね。」

「まあ…なんとなく…。」


今の仕事は、どっちかと言うと「やめられなくて」続けている方に近い。大学を卒業し、最も給料が高い会社を選び、次々に同期が辞表を出す中、どうしてもこのまま会社をやめてしまうのが悔しくなり…。
色々振り返ってみるとなんだか切なくなり、彩響は相手に気づかれないよう小さくため息をついた。そう、今さらこんなことを考えてもなんの意味も無いのに。


「林渡くんはどうして料理を勉強しようと思ったの?元々好きだった、とか?」

「幼い頃、ご飯作って待ってると、お母さんがよく褒めてくれたの。それがきっかけ。」

「へえ…そうか。なんだか可愛い理由だね。お母さんを喜ばせたかったの?」

「…まあね。それ以外は俺、褒められることなかったから。」

(…うん?)


なんだか気になる言い方で、彩響はスプーンを持ったまま林渡くんの顔を見つめた。しかし本人はなにもないように話を続けた。


「で、高校生のときに進学に悩んでいたら、兄貴が専門学校の話をして、そのまま入学って感じ。」

「そうなんだ。学校は?楽しい?」

「楽しいよ、学ぶこと多くて大変だけど。」

「一番自信ある料理ってなに?」

「肉じゃが。」