「あ、それに俺、自分の名字あまり好きじゃないから、下の名前で呼んで。俺も勝手に呼んでるから。」

「そう?…じゃあ、林渡くん。林渡くんは今何年生だっけ?」

「H専門学校の2年生。あ、うちの学校は3年で卒業だから、まだ卒業組ではないよ。」

「そう。学生なのに、なんで家政夫になったの?アルバイト的な?」


雛田、いや林渡くんがなぜ学生なのにこの仕事をやっているのか、前から気になってはいた。その質問に林渡くんが自分のスープを飲みながら答えた。


「元々兄貴と一緒に住んでいたけど、兄貴が結婚することになったんだよね。兄貴は良いやつだから結婚しても同じ家に住みたいと言ったけど、流石に新婚さんの家に居候するほどKYじゃないから。だから居場所とお金も同時に解決できる仕事を探してたの。ちょうどCinderella社の求人票を見て、現在に至る、ってわけ。」

「へえ…そうだったんだ。お兄さん、心配してないの?」

「今でも色々小言は言うけど、結局決めるのは俺だから。」


そうはっきり「俺のこと」と言える姿に、彩響はなんだか妙な気分になった。自分は21歳の頃、どうんな感じだったっけ?自分も大学とアルバイトで必死だったけど、こんな風になにかに対して自信を持って言えただろうか?

いや、恐らく違う。多分あの頃の自分と言うと…。


「彩響ちゃんは?ずっと今の仕事やってるの?雑誌作る仕事だっけ?」

「ええ、大学卒業してからはずっと。7年目…だね。」

「すげー最初から雑誌作る仕事したかったの?しかも男向けの雑誌だよね?」

「いや、最初は女性向けの雑誌で、途中で方針が変わって男性向けになったの。会社で女は私一人だね。」