ご飯より、今は寝たい。疲れすぎて何かを噛む力すら残ってない。しかし雛田くんは彩響の言葉を無視して、背中を押した。

しぶしぶ洗面台で手を洗い、椅子に倒れるように座ると、すぐ雛田くんがボールを２個両手に持ってきた。自分の反対側に座り、手に持っていたボールを彩響の前に置く。なれたような、なれていないような匂いに彩響が質問した。


「これは…？」

「鶏肉と野菜のコンソメスープ。大丈夫、胃にも負担が少ないし、栄養もたっぷりだから。食べて。あ、カロリーも低めだから太らないよ。」

「……。」

こいつと口喧嘩をする力も残ってない。彩響はそのままスプーンを手に取り、スープを一口飲み込んだ。予想通り、美味しい。程よい塩加減で、普段食べ慣れているコンソメの味なのになんだか特別に感じる。彩響は引き続きスープを飲み続けた。そうやって彩響が半分くらい食べたあと、じっとこちらを見ていた雛田くんが口を開けた。


「今日もお疲れ様。なんか大変そうだったけど、解決した？」

「ええ…なんとか。雛田くんはこんな時間まで勉強してたの？」

「そう、そしてそろそろ彩響ちゃんと一回なんか食べたいと思って。」

「私と？」

「そう。人と人が親しくなるには、やっぱり食事を一緒にするのが一番じゃん。せっかく同じ家に住むようになったし、もう少しあんたと仲良くなりたいと思ったから。」

「なにもこんな遅い時間まで待たなくても…。」

「だって彩響ちゃん、この５日間家にほぼいなかったもん。もう今日しかないと思ったから。」


しつこいやつだとは思うけど、今日のお弁当や、こうして遅くまで料理をして待ってくれることは正直ありがたいと思った。そう思うとちょっと気分が晴れてきて、彩響はこの家政夫くんと改めて素直に向き合ってみようと思った。


「そうだね。えーと、雛田くんは…。」