すでに日付は変わり、終電も見逃してしまった。なんとか河原さんから原稿は貰えたし、小冊子の件も収まった。白谷くんに後で話を聞いてみると、妊娠中の奥さんが入院したことでどうしても集中できず、そのせいでミスをしてしまったらしい。そう言われるとさすがに怒る気にもなれず、彩響はそのまま代表で編集長に報告書を書いた。

どうせ意味のない形だけの書類だけど、編集長の機嫌をとるには仕方なく…。こんなことを全て終わらせたときはもう夜の2時半を過ぎていた。暗い道でタクシーを拾い、彩響はマンションの玄関のドアを開けた。


(今日はマジで疲れたわ…。)


お腹は空いているし、目は真っ赤で、言葉通り身も心も「ボロボロ」になっている。もうこれ以上なにかをする気力は残っていない。早くシャワーを浴びて、ふわふわのベッドの上で寝たい…

そんなことを思いながらふと顔を上げると、リビングの方から明かりが漏れているのが分かった。まさか…と思いながら扉を開けると、そこには…。


「お帰り、本当遅かったね。」

「雛田くん…?今まで寝ずになにをしてたの?」

「もちろん、あんたのこと待ってたよ。」


そう言って、雛田くんがソファーから立ち上がる。隣には学校で使われていそうな本が何冊かあって、今まで自分を待ちながら読んでいたことが分かった。雛田くんはそのままキッチンに向かい、椅子の上にかけておいたエプロンを身に着けた。


「何してるの…?」

「お腹すいてるんだろうから、夜食用意しようと思って。」

「え?いらないよ。」

「そんなこと言わずに、早く手洗ってきて。もうできてるから。」