「えーと、さっきの子はなんと言うか、その…。」

「なんか、親戚の子とか、そういう感じすっか?主任のお弁当配達に来た、的な?」

「ええ、まあ…そんな感じ。あの、それより佐藤くん。さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい。佐藤くんのせいじゃないのに。」


彩響の謝罪に、佐藤くんはしばらく目を丸くして、又すぐ笑いながら手をふった。


「いいえいいえ!俺にキレたわけじゃないって知ってるので、大丈夫っす。それより、編集長の言葉は気にしないでくださいよ。普段主任の仕事ぶりが素晴らし過ぎて、少しでも隙があったら攻撃したいだけなので。」

「…そんなこと、他の人の前では言わないでね。」


「へへっ、きっとみんな俺と同じこと思ってるっすよ。この会社で主任ほど仕事できる人はいないので!」


いや、きっとまだ入社して間もない君だからそう言うのでしょう。彩響は佐藤くんに気疲れしないよう、小さい溜め息をつく。入社して7年、周りから見たら、誰もが名前を知るくらい有名な雑誌を作る責任者という肩書きでイケてるキャリアウーマンなんだろうけど、実際はー。


「佐藤くんて、この会社に入ったこと、家族はどう思われてる?」

「え?いきなりどうしたんすか?」

「いや…うち結構仕事厳しいから、ご両親たちが心配しているのかと。」


彩響の突然の質問に佐藤くんは目を大きくしながらも、素直に答えてくれた。

「俺の両親は放置主義なので、なんとも言ってないっす。『てめぇの人生だからどこに就職しようがてめぇの勝手だろ』と言うくらいなので。」

(てめぇの人生、か…)

その言葉の響きが、なんだか痛く感じる。黙り込む彩響に気づいて、佐藤くんが心配そうに聞いた。

「大丈夫ですか?」

「あ、うん。私、そろそろ戻ります。報告書書かなきゃいけないので。」

「はい、俺も又連絡してみますんで!」




そして、時刻は夜中の3時。