私には、数年来追いかけていたテーマがあった。

 それはレアメタルのリチウムに関するもので、リチウムは次世代の電気自動車や家電用バッテリーの主要材料として、今後の需要の拡大が見込まれていた。
 でも世界的に埋蔵資源が偏在していて、精製時のコストや環境負荷の問題、それに産出国の政情不安など、さまざまなリスクも絡み合っていた。

 それを安価で、安定的に供給可能な仕組みを構築できれば、生み出される利益は計り知れない。

 私は南米のとある小国に目を付けていた。そこには充分な量のリチウムが埋蔵されていたけど、低質なために有効な資源とみなされていなかった。

 でも高濃縮化や精製について新たなイノベーションがあれば、誰も見向きしなかった低質な資源が、宝の山に変貌する。

 私は資料を集めて、東都大学の先端技術チームが研究している、高分子皮膜が高濃縮化に適用できるのではないかと考えた。

 そして、このようなプロジェクトを想定した。
 
 まず、できるだけ河川の近くに採取拠点を設けて、河口付近には東都大学の研究成果を用いた精製施設を設ける。河川を利用して輸送や治安上のコストを抑えるためだ。
 
 精製したリチウムは敢えて日本に持ち込まずに、アメリカの西海岸に研究・生産拠点を設けて、そこで安価で高品質なリチウムイオン電池を大量に生産する。

 そして生み出されたリチウムイオン電池を、アメリカや日本の自動車メーカーに供給すれば──。

 産学共同の大プロジェクトになるし、パートナーとなる企業も多く募らなければならない。日本政府の認可と援助も必要になる。

 でも、想定される規模が大きくなればなるほど、私の夢も大きく膨らんで行った。

 そして私は、温めてきたこのアイディアを、ベッドで田村部長に話してしまった。
 彼が、誰よりも私を愛して、誰よりも私の夢を後押ししてくれると、信じていたから。