『先輩……助けて、先輩……』

 スマホから流れる篠原さんの声で、はっと我に返った。

「明日美ちゃん、今何処なの? 詳しく教えて」

 私の様子に、九条くんも心配そうに傍に来てくれた。

『帝都ホテルの、ロビーです……』
 
 スマホの向こうで篠原さんは、ぐすぐす啜り上げていた。

「田村部長は?」

『部屋に上がって、待ってるって……』

「明日美ちゃん、聞こえる?」

 私は胸に手を当てて、できるだけ落ち着いた声で話した。

「絶対部屋に上がっちゃ駄目。今すぐにホテルを出て、タクシーを拾ってそこから離れて」

 と、その時、

「理恵」

 九条くんが私の肩に手を置いた。

「詳しいことは分からないけど、俺に任せて」

 そして私のスマホに向けて、

「明日美さん、ですか? 俺は早川さんの知り合いの九条です。安心して、必ず君を助けるから」

 九条くんは、びっくりするようなことを言った。

「相手が誰だか知らないけど、ここは裏をかこう。すぐにエレベーターに乗って、48階のロイヤルスイートのフロアに上がって」

『大丈夫……なんですか?』

「これから俺がロイヤルスイートを一つ押さえるから、君はそこで相手をやり過ごせばいい。お金の心配はしなくていいから」

 そしてスマホを私に返すと、自分のスマホをタップして、話し始めた。

「もしもし、帝都ホテルですか。大至急支配人に取継いでください。ニューヨークの九条だと言えば、わかります──」