出国手続きを終えてから、待合のシートに腰掛けた。

 そして、九条くんのことを想っていた。

 九条くん。
 私、あなたのことが忘れられるかな?
 心も身体もボロボロにしてしまえば、あなたのぬくもりも忘れられるかな?
 
 大好きだよ、九条くん。
 
 でも私、あなたの重荷になりたくないんだ。
 紫月さんは、あんなに綺麗で育ちも良くて、あなたに意見できるくらい心もしっかりとしている。
 なにより紫月さんは、あなたのことを愛している。
 
 九条くんは、紫月さんと一緒になった方が、幸せになれるよ。
 だから私、あなたの前から消えるね。
 
 私はこんなにちっぽけで、力も無くて、もう心も身体も穢されてしまっている。
 あなたの愛を、受け入れることすらできなかった。
 だからこんなポンコツな私のことなんか、早く忘れて。

 でも……大好きだよ、九条くん。

 凍り付きそうだった私を、優しい笑顔で包んでくれた。
 美味しいごはんを、いっぱい作ってくれた。
 素敵な夜景を見せてくれて、楽しいお話で笑わせてくれた。
 いっぱい抱きしめて、口づけしてくれた。
 20年前から、私を忘れずに、待っていてくれた──。

 私は、それで充分だから。
 もう充分過ぎるから。

 だから、幸せになってね、九条くん。
 ありがとう、夢を見せてくれて。
 大好きだよ、九条くん。
 私の素敵な、まあくん──。