「はぁ? いきなりなにを言い出すのよ」


母親は呆れ顔になってしまった。


「怖い話だよ。この街にまつわる話で、できるだけリアルなヤツ」


「そんなの知らないわよ。またなにか悪いことでも企んでるんじゃないでしょうね?」


料理途中だった母親はおたまを片手に腕組みをして睨みつけてきた。


「そんなんじゃねぇよ。今の俺に必要なものなんだよ!」


どうして大人はすぐに悪いことだと決めつけるんだろう?


ことさまそういうことが多かった実は眉間に深いシワを寄せ、バンッと両手でテーブルを叩いてしまった。


その音に驚いた母親が目を丸くする。


それを見た瞬間、あ、またやっちまったと後悔した。


うまく行かないこと、人が自分を信じてくれないとき、つい大きな音を出してストレスを発散させようとしてしまうのだ。


それは自分にとってはよくても、相手からすれば脅威になるときもあると、両親からさんざん言われてきたのに。


母親の表情に悲しみがにじむのを見た時、実は逃げるように家を出ていたのだった。