笑いながら返事をしているけれど、よく聞けば声も鼻声になっている。


ついさっきまで泣いていて、直人が来たからあわてて涙をふいて出てきたようだ。


そういえば、いつもならすぐに窓を開けてくれるのに、今日はその間少し時間があったっけ。


直人はそう思い出してジッと剛を見つめた。


いつも相談に乗ってくれる兄的存在の剛が泣いている。


その事実がなんだか不思議に思えたし、なによりこういうときどうすればいいかわからない。


同じ学校の低学年の子がケガをして泣いていれば手を差し伸べることができる。


保健室に連れて行ってあげることもできる。


だけど今回は違う。


そういうのじゃダメみたいだ。


「気にしてないで、上がれよ」


「うん」


結局剛に声をかけられるまでなにも言えず、ようやく窓から部屋の中へ上がりこんだ。


部屋に入った瞬間直人は「えっ」とつぶやいて目を丸くした。


部屋の中に飾ってあった野球選手のポスターがひとつ残らず剥がされている。