「う、うん」


まさか母親がすんなり教えてくれるとは思っていなくて、思わず居住まいを正す。


「この話はね、和輝が小さい頃に実際に近所で起こったことなの。もしかしたら覚えているかもしれないけれど……」


話は、そうして始まった。


自分も覚えているかもしれないこと。


この近所で起こった実際の出来事。


そう思って聞くとどんどん話に入り込んで行ってしまって、気がつくと両手を拳にしてグッと力を込めていた。


手のひらにはジットリと汗がにじみ、呼吸すら忘れて話に聞き入る。


途中で父親が帰ってきて一緒に話しの続きを聞いて、2人して背筋が寒くなってしまった。「と、いうことがあったのよ」


話を終えた母親は大きく息を吐き出して、コップに半分残っていたお茶を一気に飲み干した。


「そういえば、そんなこともあったなぁ」


会社から戻ってきてスーツ姿のままで母親の話を聞いていた父親も、大きく息を吐き出す。


「お父さんも、覚えてるのか?」