怖い存在の実が怖い話を知りたがっているから、余計に怖くなったのだ。


まさか怖い人物なら今自分の目の前にいます。


なんて言えるはずもなく、必死に考えるフリをする。


しかしこの状況が怖すぎで頭の中は真っ白で、なにも浮かんでは来なかった。


「ごめん、僕怖い話とかよく知らないんだ」


「そっか……」


肩を落とす実を見て飯田は悲鳴を上げてしまいそうになった。


学校内で実がこんなに落ち込んでいる姿は見たことがない。


実をここまで落ち込ませてしまったのはまぎれもなく自分自身だし、このままじゃ殴られる!


そう思って身構えたが、実は一向に拳を向けてこなかった。


ギュッとつむっていた目を恐る恐る開けてみると、難しそうな表情で思い悩んでいる実の姿があった。


「あ、あの……大丈夫?」


心配になって思わずそう声をかけてしまった。


実はその声で我に返ったように顔を上げてそして「おぉ、途中で話かけて悪かったな」と、飯田の肩をポンッと叩いてあるき出したのだった。