「なーんか、ブリックル先生ヤバそうだね」

 学校からの帰り道、隣を歩くレイチェルがウンザリした口調で話しだす。
 それにはステラも同意見なので、コクリと頷いた。

「何かあったのか?」

 ステラの頭上を飛ぶアジ・ダハーカが口を挟んできた。
 先ほどステラがブリックル先生に絡まれていた時、彼は食べ物を調達するために食堂に行っていた。だから、この話題についていけてないんだろう。

「ブリックル先生は私が王女様に勝ったのが気にいらないみたいです」
「教頭先生から叱られたからイライラしてるんじゃない? またクビになりたくないんだと思うよ」
「ふーむ。なるほどな。つまりこの国の第一王女エルシィは魔法学校の教師陣から過保護に守られているというわけだ?」
「そういう事なのかもです」
「儂が手合わせした感じだと、エルシィはなかなかの実力者だったがの。教師陣が気を回すのは余計な世話なのではないか?」

 アジ・ダハーカの指摘はもっともだ。
 模擬戦でのエルシィの身のこなしは日々努力している者のソレだった。それなのに、今まで全力で戦えていなかったのだとしたら、気の毒かもしれない。

(王女という立場的に仕方ないことなのかな~。良く分かんないや)

 エルシィの心情を想い、「むむむ」と唸るステラだったが、レイチェルの方は未だにブリックル先生が気になるようで、そちらの話題に戻してきた。

「ステラの兄さんって魔法省に勤めてるんだよね? ブリックル先生のヤバげな情報とか聞いてないの?」
「んーと。義兄から聞いた話だと、ブリックル先生は“昇進の為に同僚をリンチにした”り、“手柄を横取りした”り、“部下を虐め抜いた”りしていたようです」
「きつぅ……。てか、それさー。学校の生徒に対してもやりそうじゃない? 気を付けた方がいいよ!」
「私にはアジさんが居ますし、アイテムもあるから大丈夫ですよ~」
「儂が本来の力を封じられているを忘れるでないぞ。負ける時もあるのだからな?」
「ガーン」
「いざとなったら、アタシを頼ってね!」
「ほぃ!」

 レイチェルにギュウギュウ抱きしめられ、頬が緩む。

(やっぱりブリックル先生を警戒しておかないといけないんだろうな~)

 ブリックルのステータスが気になり、自動筆記帳を開いてみる。

【名前】ジャン・ブリックル
【ジョブ】魔法使い L v53
【サポートジョブ】ビーストテイマー L v20
【パラメータ】STR:96 DEX:224 VIT:55 AGI:58 INT:543 MND:519 HP:1,830/MP:5,130
【アビリティ】攻撃魔法Ⅳ、治癒魔法Ⅳ、防御魔法Ⅳ、分析魔法Ⅴ/強制調教、複数体使役、命令系統統一、強制特攻


「ふむぅ。やっぱり教師をやっているだけあって、強そうですね」
「あ! ブリックル先生のステータスも記録してるんだ! アタシにも見せて!!」

 レイチェルに自動筆記帳を渡すと、目を輝かせて熟読しだした。

「あやつは獣使いか」
「アジさんも分析していましたか」
「うむ。学校の者はだいたい把握しておる」
「レベル53の魔法使いが使役する獣だったら、それなりに強い個体を揃えてかもですね~」
「お主。さては教師を消すつもりだな?」
「私はそんなにデンジャラスな人間ではないです!」
「どうだかな」

 何故か疑われているらしい。
 心当たりのないステラは、不思議でならない。

 そのまま二人と一匹で海岸通りを歩いて行くと、砂浜の近くに建つ一軒の店が見えてきた。
 異国情緒漂うドーム型の建物は、“エルフの雑貨店”という店名で、その名の通り、ダークエルフの女性が経営している。
 王都ではほとんど流通しない素材等が売られているので、ステラのお気に入りの店なのだ。
 店主の気まぐれで経営しているため、折角来てもしまっている時もあるのだが、今日は運良く開いている。

「わぁ! 開いてます!! 行きたいです!」
「エルフの雑貨店が開いてるなんて珍しいね! ゴーゴー!!」

 売店等でマジックアイテムを売り捌いてもなかなかお金が貯まらないのは、こういうお店に通うからだったりする。しかしマジックアイテムのクリエイターとしては、レア素材には惹かれてしまう。