「…………まどか、怒ってる?」
「どうして」
「え?」
首を傾げれば、彼は苦しげにつぶやいた。
「こうも伝わらないものなんでしょうね」
彼がそっと私の手を握る。
包み込むように、そっと。
「……あなたが僕を大切にしてくれるのと同じように、僕もあなたのことが大切なんです。あなたが僕に傷ついてほしくないと思うのと同じくらい、僕もあなたに傷ついてほしくないんです」
………これは、いつもの追憶ではない。
「僕は、珠緒さんに幸せになってほしい。幸せでいて欲しい。……いつだって」
多分、私自身が見ている、私の願望を映した夢なのだ。
だから。
「あなたの望みを犠牲にして得る幸せなんて、僕には存在しないんですよ」
彼は私が心の奥底で渇望していた言葉をくれる。
「あなたの心からの望みだというのなら、僕はすべてを受け入れます。叶えます。……だから聞かせてください。我慢して僕と離れて、本意でもないのに僕に嫌われて、そしたら珠緒さんは幸せになれますか?」
「…………っ」
まどかの胸に、しがみつく。
考えるよりも先に、体が動いていた。
答えはもうとっくに、自分の中で見つけていたかのように。
幼子のように、ただただ首を振り続けてまどかに縋る。
「なれる、わけ……ないっ…!!」
「………」
「せっかく、また、逢えたのにっ……!!離れたいわけないっ…、嫌われたいわけ、ないじゃないっ……!!」
「………珠緒さん」
まどかの手が、あやすかのように背中に添えられた。
その温かさが、余計に私の中で堰き止めていた感情を決壊させた。
「好きなのっ……!!何回生まれ変わったって…、まどかが好きなの!!……一緒に生きたい…っ」
ポロポロと、瞳から涙が流れ落ちる。
そうだ。私は……。
「生き………たい……。……私……」
――自分のために生きたいなんて、思ったのは初めてだ。
里に住まう人々を守るため、死ぬ存在として生まれてきた。
蘇ってからは、まどかのためなら命を捨ててもいいと思っていた。
でも、本当は、ずっと。ずっと。
「まどかと、いっしょに、生きていたい……」
「うん」
私の嗚咽交じりの願い事を聞き届けたまどかの腕が、柔らかく私の体を包み込んだ。