(あの子は何組だろう……。A組にはいなかった…)
新入生代表であることは差し置いて、さすがに式の最中にきょろきょろと辺りを確認する度胸はなく、歩きながら視線を泳がせる。
すると。
「!」
先ほどから探し続けていた人の姿を目が捉え、息を呑んだ。
(B組、か?)
その一瞬。
俺が胸を高鳴らせたことは露知らず、彼女は眠たげにぼんやりと虚空を見つめていた。
彼女を視界に入れてからというもの、何かに追い立てられるように急く心を宥めつつ、初日のホームルームを終えた。
挨拶と同時に、同じクラスだった大和すら置いて、教室を出る。
後ろからワラワラと女子生徒たちが追いかけてくるのを適当にあしらいながら、隣のB組に向かった。
(名前も知らないのに)
なぜこうも、落ち着かない気持ちになるのだろう。
(あの子と、1秒でも離れていたくない)
もはや駆け足にも似た足取りで歩く廊下の先。
そこに、彼女はいた。
周りの視線を集めながら。
特徴的な髪が腰元で揺れる。
小さな顔には、それぞれのパーツが完璧に収まっていた。
長いまつ毛に縁どられた、大きな金茶の瞳。
小さな可愛らしい鼻に、さくらんぼ色のふっくらとした唇。
雪のように白い肌。
人目を引くには、十分すぎる美貌。
「…………っ」
唇が、無意識に動いて何かを告げようとする。
自分は知らない、誰かの名前を紡ごうとする。
けれど、声が出ない。
彼女が誰か、知りたいのに。
そうすれば、物心ついたころから感じている、この喪失感と焦燥感の正体が、はっきりする気がするのに。
そうこうしていると、彼女が視線を上げた。
そして、
「まど、……か?」
小さな唇から溢れたその声が、耳に届いた瞬間。
ビリビリと、体の芯が痺れた。