その夢の中で、俺は見たこともない古めかしい着物を身に纏って立っていた。

しかも自分のその体は、幽霊のようにぼんやりと白く発光していた。


「………………」


無言でその場に蹲り、頭を抱える。


(ああああぁぁぁぁ!!!またあの夢か…っ!?)


今ではほぼ条件反射のように熱くなってしまう頬を手で押さえる。


何故かと言われれば答えは簡単だ。
平たくいえば、これはここ最近の淫夢の冒頭なのだから。

そして、登場人物はもちろん……。


(こんな時にまで勘弁してくれ…っ。(これ)のせいで俺は…っ!俺は珠緒を避けまくることになったってのにっ!)


夢とはいえ、想い人とはいえ。
付き合ってもない同級生を組み敷いて最後まで致すのだ。

なまじ、毎回彼女が拒む風でもなく、むしろ誘うように愛らしく応えてくれるのがタチが悪い。

夢の中の俺はそれに触発され、そのまま珠緒を全力で貪ることが常だった。

………現実の彼女を前にして、罪悪感を覚えないわけがない。


(………俺、最低だ)


内心で毒づきつつ、状況を把握しようときょどきょど周りを確認すれば、そこは何も見えない真っ暗闇だった。


「?」


普段とは少し違った様子に気づいて、訝しみながら腰を上げる。

目的もなく少し歩いてみるが、一向に景色は黒から変わらない。


(おかしいな…。いつもはすぐに…)


今までの人生で履いた覚えもない、けれど馴染みのある草履の感触を足で感じながら歩みを進めていた俺は、ふと、足を止めた。

前方に、白い人影が見えたのだ。


「……?」


真っ暗なこの世界で、自分と同じように光るそれは、清らかな光の如く輝いて見えた。

誘われるように近づいていくと、眩しいだけだったそれの輪郭が、次第にはっきりとしてくる。


やがて、その光がかたどった形は。


「……………珠緒、……さん?」


唇が、一人でに動いた。


最近の夢ではいつもそうだ。

勝手に口と体が動き、自分はただ、目を通してそれを見ているだけ。

自分のことなのに、それを第三者目線から鑑賞しているような感覚、とでも言えばよいのだろうか。


けれど、今回は少し違った。


「……珠緒さん、ですか?」


唇から出る言葉は、普段の自分のものより遥かに優しいけれど。

自分の意思通りに、思ったことが声に出る。

こちらの声が聞こえたらしき、その人影が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

そして、琥珀のように綺麗な瞳を見開く。


「………まどか?」

「っ」


返事をするよりも先に、その細い体を抱きしめた。