「言えよ…っ」


ぽたぽたと、熱くなった目から涙が落ちる。

彼女の頬に跡を作ろうが、関係ない。

どうしようもなく、悲しくて、苦しくて、悔しかった。


「助けてって…、ちゃんと言ってくれっ…。『大丈夫』だけじゃ、何もわかんねぇよっ……!」


不甲斐なくて、情けなくて。

俺はまだ、彼女に何も信用されていないのだと痛感した。

でも、それも当たり前だ。彼女は正しい。

意地を張って、虚勢を張って、挙句自分から避けていた奴に誰が相談できるというのだろう。


(…………変わらなければ)


嗚咽を噛み殺し、目を閉じる。


(名前が同じ見知らぬ男相手に無駄な見栄を張って、珠緒を亡くすようなことがあれば、俺は自分を何遍殺しても飽き足らない)



――認めよう。俺は、珠緒を愛している。



例え嫌われても、拒絶されても、俺は彼女を想い続ける。

ただ、彼女の傍にいて、彼女を守りたい。俺の望みはそれだけだ。

想いを伝えた結果、報われなくても、別にいい。


口元に小さく笑みが浮かぶ。


……自分でもなぜか、腑に落ちた。


元ある場所に、かけたものが収まったような。

自分は最初から、そんな存在だった。そういう気がする。



近くの壁に背を預けて座り込み、横抱きにしたままの彼女の頬をそっと撫でる。


手のひらに、柔らかい熱を感じた。


「……隣にいさせて」


白髪交じりの薄茶の髪に顔を埋めれば、荒ぶっていた気持ちが凪いでくるのを感じる。



――珠緒が、珠緒(じぶん)を殺さないように。



(今度こそ、俺が守り抜く)



光の粒に包まれながら彼女の頭に顔を寄せ、うとうとと微睡み、俺は目を閉じた。