(あぁ)


――『これ』だ。


ずっと探し続けてきた、命よりも大切な、俺の『宝物』。


足が震え、視界がぼやける。

何を伝えればいいのか定まらないうちに、口が勝手に動いた。


「…………きみ」


しかし、


「っ!!」


彼女は何故か、怯えるように体を翻して、来た道を走って戻りだした。


「えっ、待って!!」


突然の反応に驚きながらも、慌てて後を追う。

人通りの多い廊下を、周りの目を気にせず駆ける。


俺の目は、前を走る彼女の事だけしか捉えていなかった。


細く華奢な足を、ちょこちょこと動かして一生懸命に逃げる、小さな体が可愛い。

澄んだ川のように背中を流れる髪に触れたい。

時々こちらを振り返っては、蒼くなったり赤くなったりする顔が愛おしい。


彼女の全部を、この腕で抱きしめたい。

自分に、これほどまでに熱い感情があったなんて、知らなかった。


「っ」

「待ってって…」


正体不明の熱に浮かされるまま、目前に迫った彼女の手を捕まえた。


――が。


「っ!?」


ヒヤリ、なんて、生ぬるい。

心臓まで凍りつきそうなほどの冷たさが、手のひらから体の芯まで届き、弾かれたように手を離す。


(なんだ…?……今の)


まるで。


――氷や死体にでも、触れたかのよう。


ポカンと彼女を見つめていれば、幸いあちらも足を止め、今度はまじまじとこちらを見てきた。


その顔が様々な感情を映し、終いには腕を広げてこちらへ飛び込んできそうな仕草をみせる。

呆けたまま、しかし、俺の体は無意識にそれを受け止めようと、一緒になって腕を広げた。


途端に彼女ははっとして、何かを耐えるように苦しげな表情になる。


そんな彼女を見たくなくて、俺はとっさに口を開いた。


「あの、きみ、どこかで会ったことない?」


警戒されないように、極力柔らかい表情を心がけながら問いかけると、彼女は一層切なそうな顔になり、うつむいてしまう。


(なんで、そんな顔をするんだ)


無性に悲しくなって、ただただ、彼女の反応を待っていると、ふいに、彼女が顔を上げて俺の目をじっと見た。



そして、決意を秘めた眼差しで、言い放つ。