死神にとって人間の魂を常世(とこよ)に送ることが仕事ではあるものの、それと同時に“存在するための糧”にもなる。

 生命の死を司る神である死神は、常世に送った魂の数が多ければ多いほどその神格が高くなり、神格が高ければ高いほど死神が持つ能力は強化される。

 現世(うつしよ)には、いわゆる悪霊と呼ばれる魂がある。
 生命の死を司る死神は、生者を死者であるはずの悪霊から守ることも“死を守る”という意味で1つの仕事になる。しかし、死神が弱ければ凶暴な悪霊によって消されてしまう。

 悪霊は、人間の負の感情の固まりだ。
 俺ら死神は、人間のその感情に負ける。だからこそ、俺はその感情に興味を抱いているのだ。

 しかし、感情を奪うというのは死神の掟的にグレーゾーンだ。
 バレればそれなりの罰則はあるかもしれない。ただその危険性を踏まえてもなお、感情を手にするというのは魅力的だった。


「お前の魂と契約させろ。お前の命が尽きたとき、その魂は俺がもらう」


 そう言うと、彼女は微笑んだ。
 それは、さっきの花が咲いたようなものとは異なり、むしろ花が散っていく様を想起させた。

 夕日がひどく眩しかったせいだろうか、その光に照らされた彼女は、すぐにでもその光に溶け消えてしまいそうだった。