「貰いたい気持ちは山々だが、残念ながら寿命が尽きていない人間の命を刈ることはできない」

「命じゃなければ刈り取れる?」

「どういうことだ?」

「感情は? 感情ならできる……?」


 必死に縋るように、彼女は俺にそう言ってきた。

 死神に感情なんてものはない。しかし死神の仕事上、喜怒哀楽の表情だとか、愛や憎しみの定義だとか、基本的なものは知識として学び頭には入っている。

 ではそもそも死神にも感情があればいいのではと思ったのだが、前に一度調べたところ不必要どころか邪魔になるらしい。“知識”で十分だということだ。

 だが実際問題、人間の言動には理解できないことが多い。
 嘘を言って周りを惑わしては自身を破滅に導く奴もいるし、欲が強すぎて死ぬ奴もいる。かと思えば、他者を優先して自分の命を落とす奴もいる。

 もっと器用に生きればいいのにと、馬鹿馬鹿しいとさえ思う。

 しかし、泣きながらも笑みを浮かべ、死者の頬を撫でる人間と、その生きている人間には見えないにも関わらず、そっと抱きしめる死者の姿は、理解はできないものの興味深いものだった。

 そして彼らは同じことを言うのだ――“愛してる”と。


 感情と言語を併せ持つのは、人間の特権だと俺は思う。だからこそ、その俺にはない“感情”がどんなものなのか、興味が湧いた。


「できないことはない。だが、条件がある」